総務の森の「相談の広場(労務管理)」に2020年1月から2026年6月までに投稿された6,082件を分類すると、「出張・研修の労働時間性」は49件、全体の0.8%でした。1件あたりの返信数は3.59件で、24論点のうち25件以上あった22論点の中では最も少ない数字です(22論点の件数加重平均は4.38件)。やりとりが少なくて済む、つまり答えが定まっている論点だということです。
それでも6年半にわたって相談され続けています。判断の基準そのものは決まっているのに、自分の会社のどの状況がどの基準に当たるのかが分からない、というのが実際のところです。この記事では移動時間・研修・事業場外みなしの3つを、担当者が自分の職場で確認できる事実だけで判定できる形に整理します。
出張の移動時間は労働時間か。原則と、労働時間になる3つの場合
移動時間は、移動中に業務をしていなければ、原則として労働時間ではありません。自宅や事業場から目的地へ向かう時間は通勤に準じるものとして扱われ、会社の指揮命令下に置かれていないためです。新幹線の中で眠っていても本を読んでいても、労働時間にはなりません。
一方で、次の3つのいずれかに当たる移動は労働時間です。判定は実態で決まるため、就業規則に「移動時間は労働時間としない」と書いてあっても、実態が当てはまれば労働時間になります。
- 運搬・監視そのものが業務の移動。現金や貴重品、精密機器、商品を運ぶこと自体が指示された業務である場合です。荷物から離れられない状態が続く移動が該当します。
- 移動中に業務を命じている。移動中の電話対応を指示している、着くまでに資料を作って送るよう言っている、といった場合です。命じた業務に対応していた時間が労働時間になります。
- 移動そのものを拘束している。指定の時刻に会社へ集合させ、社用車で現場へ向かわせる場合です。集合時刻から指揮命令下に入るため、車内の時間も労働時間になります。同乗者を乗せた運転を指示した場合も同じです。
自分の職場で確認するのは次の3点です。3つとも「いいえ」なら、その移動時間は労働時間ではありません。
- 移動の経路と出発時刻を本人が決めているか
- 移動中に会社から作業の指示を出しているか
- 運転・運搬・監視そのものを業務として指示しているか
移動が労働時間になる日は、その日の実労働時間が長くなります。労働基準法第32条第2項は、休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはならないと定めています。8時間を超えた分は同法第37条第1項の割増賃金の対象です。8時間・週40時間の数え方は法定労働時間とは?8時間・週40時間の境界線で解説しています。
研修・教育訓練は労働時間か。業務命令か、不参加に不利益があるか
研修や教育訓練は、参加が業務命令である場合、または不参加に不利益がある場合は労働時間です。参加が自由で、欠席しても何も起きないものは労働時間ではありません。
分かれ目になるのは案内文の書き方ではなく、欠席したときに実際に何が起きるかです。「参加は任意です」と書いていても、欠席者に別日程の受講を課している、欠席理由書を求めている、受講状況を人事評価や昇格の要件にしているなら、参加は実質的に強制されているため労働時間として扱います。
よくある研修の形態ごとの判定を表にしました。自社の研修を1つずつ当てはめて確認してください。
| 状況 | 労働時間か | 理由 |
|---|---|---|
| 新入社員研修。受講を義務づけ、欠席者には別日程での受講を求めている | 労働時間 | 参加が業務命令であり、欠席が認められていないため |
| 会社が日時と会場を指定して実施する安全衛生教育 | 労働時間 | 出席を業務命令として指示しているため |
| 業務に必要な資格の講習。資格がないと現在の担当業務を続けられない | 労働時間 | 受講しなければ担当業務を遂行できず、参加が業務上必要とされるため |
| 終業後の勉強会。案内は「任意」だが、欠席者に理由書の提出を求めている | 労働時間 | 欠席に手続き上の不利益があり、参加が実質的に強制されているため |
| eラーニング。期限までに修了しないと未修了者として上長へ報告される | 労働時間 | 修了を業務命令として管理し、未修了に不利益があるため |
| 受講は任意だが、修了しないと昇格の要件を満たせない | 労働時間 | 不参加が処遇上の不利益に直結するため |
| 終業後の勉強会。案内は任意で、欠席者に何も求めず、参加状況を評価に使わない | 労働時間ではない | 参加が労働者の自由であり、不参加による不利益がないため |
| 本人の希望で受ける、現在の業務に関係しない資格の講習。費用も自己負担 | 労働時間ではない | 会社の指示によらず、受講しなくても業務に支障がないため |
表の理由の列は、すべて「命じたか」と「欠席したら何が起きるか」の2つに集約されます。研修の名称や開催時間帯ではなく、この2つだけを確認すれば判定できます。
事業場外みなしが使えない場合・使える場合
労働基準法第38条の2第1項は、労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなすと定めています。逆に読むと、労働時間を算定できる日にはこの制度を使えません。出張だから使える、外回りだから使える、という制度ではありません。
使えない場合を先に挙げます。次のいずれかに当てはまる日は労働時間を算定できるため、実際の労働時間を記録します。
- 訪問先と訪問時刻を会社が指定している
- 社用のスマートフォンや無線で随時の指示を出し、本人がその指示に従って動いている
- 上司や同行者が一緒に行動していて、始業と終業の時刻を会社側が把握できる
- 朝に事業場で当日の指示を受け、業務終了後に事業場へ戻って報告している
- 訪問先ごとの開始・終了時刻を報告させている、または訪問管理アプリで行動を把握している
使えるのは、本人が訪問先・順番・時刻を自分で決めていて、移動中も訪問中も随時の指示を受けず、実際の労働時間を会社が把握する手段もない場合です。社用スマートフォンを持たせている職場では、この3つを同時に満たす日はほとんどありません。
条件を満たした場合でも、みなす時間は業務の実態と労使協定の有無で変わります。次の3つのどれに当たるかを確認します。
- 原則。所定労働時間労働したものとみなします(第38条の2第1項本文)。
- 通常所定労働時間を超える労働が必要な業務。その業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなします(同項ただし書)。
- 労使協定を結んだ場合。協定で定めた時間を「通常必要とされる時間」とします(第2項)。この協定は行政官庁への届出が必要です(第3項)。
注意点が2つあります。みなしの対象は事業場外で業務に従事した部分だけなので、出張の前後に事業場で働いた時間は実労働時間として足し合わせます。また、みなしは1日の労働時間の数え方を定めるもので、深夜の時間帯に働いた分や休日に働いた分の扱いは別に判断します。
事業場外みなしは裁量労働制とは別の制度で、対象業務も手続きも異なります。裁量労働制の勤怠管理は裁量労働制・高プロの勤怠管理で扱っています。
よくある失敗と対策
出張・研修の記録で起きる失敗は、原因がはっきりしています。次の6つが繰り返し起きるものです。
| よくあるミス | なぜ起きるか | 対策 |
|---|---|---|
| 出張日を一律で所定労働時間として記録している | 「出張は時間が分からないから所定でよい」と思い込んでいる | 第38条の2第1項の「算定し難いとき」に当たるかを先に確認する。訪問時刻を指定しているなら実労働時間を記録する |
| 直行直帰の日だけ記録が空欄になる | タイムカードが事業場にあり、本人が打刻できない | 始業・終業時刻を本人が当日中に申告する経路を決め、空欄のまま月末を迎えない |
| 移動時間をすべて労働時間として計上している | 「拘束されているから労働時間」と広く捉えている | 運搬・監視が業務か、移動中に指示を出したかで切り分け、当てはまる時間だけ計上する |
| 研修の時間を労働時間に入れていない | 「教育は本人のためのもの」と整理している | 業務命令か、不参加に不利益があるかで判定する。任意と案内していても不利益があれば労働時間として扱う |
| 出張日の残業が割増賃金の計算から漏れる | 出張日を所定どおりと処理し、実労働時間を集計していない | 出張日も1日の実労働時間を集計する。8時間を超えた分は第37条第1項の割増賃金の対象になる |
| 事業場外みなしの労使協定を結んだが届け出ていない | 協定の締結で手続きが完了したと考えている | 第38条の2第3項は行政官庁への届出を求めている。締結と届出を1つの手続きとして管理する |
6つとも、月末に集計を始めてから気づくと、本人の記憶に頼って空欄を埋めることになります。出張・研修の当日に記録を確定させる運用に変えると、まとめて起きなくなります。
判断に迷いやすい7つの場面
直行直帰の日の始業・終業をどう記録するか
最初の訪問先で業務を始めた時刻が始業、最後の訪問先で業務を終えた時刻が終業です。移動時間が労働時間でない日は、自宅を出た時刻は始業になりません。
本人が当日中に両方の時刻を申告する経路を決めておきます。移動中に指示を受けて対応した時間があれば、その時刻と内容も併せて申告してもらいます。
休日に移動した日
移動だけなら労働時間ではないため、休日労働としての割増賃金は発生しません。移動中に業務を命じていた場合、または機材や現金の運搬・監視が移動の目的である場合は労働時間になります。
確認するのは、その日に会社から作業の指示を出したかどうかの1点です。休日移動に手当を支給する会社は多くありますが、これは法律上の義務ではなく、就業規則や旅費規程で会社が決める事項です。
出張先での接待
会社や上司から同席を指示され、その場で商談や打合せを続けているなら労働時間です。誘われて自由に断れるものは労働時間ではありません。
分かれ目は、出席を指示したか、断った場合に不利益があるか、その場で業務を行っているかの3点です。研修後の懇親会も同じ基準で判定します。
宿泊を伴う出張の夜
ホテルで自由に過ごせる時間は労働時間ではありません。宿泊先にいることだけを理由に労働時間になることはありません。
翌日の資料作成を指示していれば、その作業をしていた時間は労働時間です。夜間の呼び出しに応じる義務を課す場合は、待機時間の扱いを事前に決めておきます。
新入社員研修の期間
受講が業務命令である以上、研修日は全日が労働時間です。1日の研修が8時間を超えれば労働基準法第32条第2項の枠を超え、第37条第1項の割増賃金の対象になります。
宿泊研修の夜の自由時間は労働時間ではありません。グループワークや翌朝までの課題提出を課している場合は、その作業時間が労働時間になります。
eラーニングを自宅でやった時間
受講が業務命令なら労働時間です。期限を設定し、未修了者を上長に報告する運用にしているなら、それは業務命令です。
開始・終了時刻を本人に申告してもらうか、受講システムのログをそのまま記録として残します。深夜や休日の受講を避けたい場合は、受講できる時間帯をあらかじめ指定します。
移動中に社用スマホで対応した時間
対応していた時間が労働時間になります。移動時間の全体が労働時間になるわけではありません。
対応した時刻と内容を当日中に申告するルールを決めておきます。1件ごとに分単位で申告させると続かないため、5分単位や10分単位で区切る運用が現実的です。
出張・研修の日の記録をどう残すか
出張や研修の日に残す記録は3つです。判定を毎回やり直さずに済むよう、記録の形を先に決めておきます。
- その日の始業時刻・終業時刻・休憩時間。移動時間が労働時間でない日も、業務を始めた時刻と終えた時刻は残します。
- 移動中や時間外に対応した業務の時刻と内容。後から記憶で埋めない形にします。
- 事業場外みなしを使う日は、その日がみなしの条件に当たると判断した根拠。訪問先を本人が決めた、随時の指示を出していない、といった事実を書き残します。
これらの記録の保存期間は労働時間の客観的把握義務とタイムカードで解説しています。事業場にいない従業員の記録手段の選び方は勤怠の記録方法を用途で使い分けるにまとめました。
ここから先は、仕組みで解決できる範囲と、社会保険労務士に相談する範囲を分けて考えます。仕組みで解決できるのは、記録を集めること、空欄の日を見つけること、1日の労働時間を計算して8時間を超えた分を出すこと、月次で集計することです。手順が決まっている作業なので、担当者が毎月やり直す必要はありません。
社会保険労務士の領域は判断と設計です。自社の業務が第38条の2第1項の「労働時間を算定し難いとき」に当たるかの判断、労使協定の内容と届出、就業規則や旅費規程での移動時間・出張手当の定め方、過去分をさかのぼって是正する場合の進め方が該当します。相談先は社労士事務所を探すから地域や分野で絞り込めます。
よくある質問
出張の日は一律で所定労働時間として記録してよいですか?
事業場外みなしの条件を満たす日に限られます。労働基準法第38条の2第1項は「労働時間を算定し難いとき」に限って所定労働時間労働したものとみなすと定めています。訪問先と訪問時刻を会社が指定している、社用スマートフォンで随時の指示を出している、業務終了後に事業場へ戻って報告させている、といった日は労働時間を算定できるため、実際の労働時間を記録します。
出張の移動時間に残業代は必要ですか?
移動中に業務をしていなければ、移動時間は労働時間ではないため割増賃金の対象になりません。移動中に業務を命じていた時間、機材や現金の運搬・監視そのものが業務である移動、集合時刻を指定して社用車で向かわせる移動は労働時間です。これらを含めた1日の労働時間が8時間を超えた場合、超えた分は労働基準法第37条第1項の割増賃金の対象になります。
「参加は任意」と案内した研修なら労働時間になりませんか?
案内の文言ではなく、欠席したときに何が起きるかで決まります。欠席者に別日程の受講を課す、欠席理由書を求める、受講状況を評価や昇格の要件にするといった扱いがあれば、参加は実質的に強制されているため労働時間として扱います。欠席しても何も起きず、参加状況を処遇に使っていないなら労働時間ではありません。
事業場外みなしを使うには労使協定が必要ですか?
所定労働時間労働したものとみなす場合(労働基準法第38条の2第1項本文)に、協定は求められていません。業務の遂行に通常所定労働時間を超える労働が必要な場合は、同条第2項により労使協定でその時間を定めることができます。協定を結んだときは、同条第3項により行政官庁への届出が必要です。
休日に移動した日は休日出勤として扱う必要がありますか?
移動だけであれば労働時間ではないため、法律上、休日労働の割増賃金を支払う義務は生じません。移動中に業務を命じていた場合や、運搬・監視が移動の目的である場合は労働時間となり、休日労働として扱います。移動そのものに手当を支給するかどうかは、就業規則や旅費規程で会社が決める事項です。
直行直帰の日はタイムカードを押せません。どう記録すればよいですか?
本人が当日中に始業時刻と終業時刻を申告する経路を決めて、会社が記録として残します。最初の訪問先で業務を始めた時刻が始業、最後の訪問先で業務を終えた時刻が終業です。移動中に指示を受けて対応した時間があれば、その時刻と内容も併せて申告してもらい、同じ日の記録に加えます。
- 移動時間は、移動中に業務をしていなければ原則として労働時間ではない。運搬・監視そのものが業務の移動、移動中に業務を命じた時間、集合を指定して社用車で向かわせる移動は労働時間になる
- 研修は、参加が業務命令であるか、不参加に不利益があるなら労働時間。案内文に「任意」と書いてあるかでは決まらず、欠席したときに何が起きるかで決まる
- 事業場外みなし(労働基準法第38条の2第1項)が使えるのは労働時間を算定し難いときに限られる。訪問先と時刻を指定している、社用スマートフォンで随時の指示を出している日には使えない
- 確認する事実は「訪問先と時刻を誰が決めたか」「移動中に指示を出したか」「欠席したら何が起きるか」の3点。就業規則にどう書いてあるかでは決まらない
- 出張・研修の日も1日の始業・終業・休憩を記録に残す。8時間を超えた分は労働基準法第37条第1項の割増賃金の対象になる
パシャ勤怠は、いま使っている紙のタイムカードをスマートフォンで撮影するだけで勤怠データに変換し、1日の労働時間を自動で集計します。出張や研修で手書きになった欄もそのまま読み取るため、記録の様式を変えずに集計だけを機械に任せられます。自社の様式で確かめたい場合はお問い合わせください。