エンジニア・研究職・コンサルタント・士業など、高度専門人材の雇用では「時間ではなく成果で働く」前提の制度がよく使われます。裁量労働制、高度プロフェッショナル制度(高プロ)、年俸制などです。ここでありがちな誤解が「これらの制度なら勤怠管理は不要」というものです。実際には、どの制度でも労働時間(またはそれに相当する時間)の把握は法律上の義務として残ります。この記事では、制度ごとに「何を記録しなければならないか」を整理します。
高度専門人材の雇用で使われる労働時間制度
まず制度の全体像です。それぞれ「賃金の計算」と「時間の記録」で扱いが異なります。
- 専門業務型裁量労働制 — 研究開発、情報処理システムの分析・設計、デザイナー、士業など約20の対象業務。実際の労働時間ではなく、労使協定で定めた「みなし労働時間」を働いたものとみなす制度です。
- 企画業務型裁量労働制 — 事業運営の企画・立案・調査・分析の業務が対象。労使委員会の決議と本人同意が必要です。
- 高度プロフェッショナル制度(高プロ) — 年収1,075万円以上の金融商品開発、アナリスト、コンサルタント、研究開発など特定業務が対象。労働時間・休憩・休日・深夜割増の規定そのものが適用除外になります。
- 年俸制 — これは賃金の決め方であって、労働時間制度ではありません。年俸制でも通常の労働時間規制・残業代のルールがそのまま適用されます。
「みなし」でも労働時間の状況把握は義務
裁量労働制の「みなし」は、賃金計算のうえで労働時間を擬制する仕組みにすぎません。2019年4月施行の労働安全衛生法改正(第66条の8の3)により、事業者は裁量労働制の適用者や管理監督者を含むすべての労働者(高プロ対象者を除く)について、「労働時間の状況」を客観的な方法で把握することが義務付けられています。目的は賃金計算ではなく、長時間労働者への医師の面接指導など健康確保のためです。
また、裁量労働制でも深夜(22時〜翌5時)と法定休日の割増賃金は必要です。「みなしだから記録しない」という運用では、深夜・休日労働の割増計算も、健康確保のための把握義務も果たせません。
高プロは例外。ただし健康管理時間の把握が必要
高プロ対象者は労働時間の状況把握義務の対象からは外れますが、代わりに「健康管理時間」(事業場内にいた時間+事業場外で労働した時間)を客観的な方法で把握する義務があります。さらに年間104日以上かつ4週4日以上の休日確保、健康管理時間が一定を超えた場合の医師の面接指導など、時間の記録を前提とした健康確保措置が制度の成立要件になっています。
つまり高プロでも「時間の記録が不要」になるわけではなく、記録する対象が労働時間から健康管理時間に置き換わる、というのが正確な理解です。
2024年4月の裁量労働制改正
2024年4月の省令改正で、裁量労働制の運用要件が強化されました。実務への影響が大きいのは次の点です。
- 専門業務型でも本人同意が必須に — 従来は企画業務型のみだった本人同意が、専門業務型にも必要になりました。同意しなかった場合の不利益取り扱いの禁止、同意の撤回手続きの整備も求められます。
- 健康・福祉確保措置の強化 — 把握した労働時間の状況に応じて、勤務間インターバルや深夜業の回数制限などの措置を講じることが求められ、記録の保存も必要です。
いずれも「対象者の時間の状況をきちんと記録できていること」が前提の要件です。制度を維持するためにも、記録の仕組みが必要になります。
実務での把握方法
労働時間の状況の把握は、タイムカードやパソコンの使用時間の記録といった客観的な記録を基礎とすることが原則です。自己申告のみの運用は、やむを得ない場合の例外として厳しい運用要件が課されます。この原則は労働時間の客観的把握義務とタイムカードで詳しく解説しています。
一方で、裁量労働や高プロで働く高度専門人材に「毎日打刻させる」運用は、制度の趣旨(働き方の裁量)と現場感覚に合わず、形骸化しやすいのも実情です。打刻に頼らない把握の方法と課題は打刻しない勤怠管理は可能かで整理しています。
よくある質問
裁量労働制ならタイムカードや打刻は不要ですか?
不要にはなりません。みなし労働時間は賃金計算上の擬制であり、労働安全衛生法に基づく「労働時間の状況」の把握義務は裁量労働制の適用者にも課されます。また深夜・法定休日の割増賃金の計算には実際の記録が必要です。
年俸制なら残業代は支払わなくてよいですか?
よくある誤解です。年俸制は賃金の決め方であって、労働時間規制の適用除外ではありません。法定労働時間を超えた分の割増賃金は原則必要です。固定残業代を含む場合も、想定時間を超えた分は追加の支払いが必要です。
高度プロフェッショナル制度の対象になる条件は?
年収1,075万円以上であること、金融商品の開発・ディーリング・アナリスト・コンサルタント・研究開発などの対象業務に就くこと、労使委員会の決議と本人の同意があることが主な要件です。導入後も健康管理時間の把握や年104日以上の休日確保などの健康確保措置が必要です。
- 裁量労働制でも労働時間の状況把握は法律上の義務(安衛法66条の8の3)
- 裁量労働制でも深夜・法定休日の割増賃金は必要
- 高プロは労働時間規制の適用除外だが、健康管理時間の客観的把握が義務
- 2024年4月改正で専門業務型にも本人同意が必須になり、記録の重要性が増した
- 年俸制は労働時間制度ではなく、通常の残業代ルールが適用される
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本記事は2026年7月15日時点の情報に基づく一般的な解説です。個別の運用は所轄の労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。