「うちはタイムカードも打刻機もありません」という会社は、実は少なくありません。専門職やコンサルティング、外回り中心の営業、リモートワーク主体の会社、少人数のスタートアップなどでは、そもそも「打刻」という習慣がなじまないからです。ただし、打刻の習慣がないことと、労働時間を記録しなくてよいことは別問題です。この記事では、タイムカードがない会社に求められる労働時間把握のルールと、打刻に頼らない運用の現実的な選択肢を整理します。
タイムカードがない会社でも把握は義務
2019年4月施行の労働安全衛生法改正により、事業者は管理監督者や裁量労働制の適用者を含むすべての労働者(高度プロフェッショナル制度の対象者を除く)について、「労働時間の状況」を把握する義務を負っています。タイムカードを置いていない会社も対象です。
また、賃金計算の面でも、残業代の支払いには実際の労働時間の記録が根拠になります。記録がなければ、労働基準監督署の調査や未払い残業代の請求の場面で、会社側が実態を説明できなくなります。労働時間の記録は5年(当分の間3年)の保存義務もあります。詳しくは労働時間の客観的把握義務とタイムカードをご覧ください。
認められている3つの把握方法
厚生労働省のガイドラインでは、労働時間の把握方法として次が挙げられています。
- ① 使用者による現認 — 上司などが始業・終業を直接確認して記録する方法。少人数・同一拠点なら成立しますが、リモートや直行直帰では現実的ではありません。
- ② 客観的な記録 — タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録などを基礎として確認・記録する方法。これが原則とされています。
- ③ 自己申告 — やむを得ず客観的な方法により難い場合の例外的な方法。次章のとおり厳しい運用要件が付きます。
「打刻しない」会社の多くは、実質的に③の自己申告(あるいは記録なし)で運用しているのが実情です。
自己申告制の厳しい運用要件
自己申告制は禁止されてはいませんが、例外扱いであり、ガイドラインは次のような措置を求めています。
- 対象者に制度の趣旨や適正な申告について十分な説明を行うこと
- 自己申告された時間と、パソコンの使用記録などの客観的な情報に著しい乖離があるときは実態調査を行い、必要に応じて補正すること
- 残業の申告に上限を設けるなど、適正な申告を妨げる措置をとらないこと
つまり「本人がつけた時間をそのまま信じて終わり」の運用は認められておらず、客観的な情報との突き合わせが会社側の責任として残ります。自己申告制は、手間が消えるのではなく手間の場所が申告のチェックに移る制度だと考えるのが実務的です。
打刻レス運用の落とし穴
打刻の習慣がない会社で実際に起きやすい問題です。
- 記録の空白 — 申告を忘れる・月末にまとめて思い出しで書く、が常態化し、記録の信頼性が下がる
- 未払い残業リスク — 実態より短い申告が積み重なり、後から差額請求・是正勧告の対象になる
- 長時間労働の見逃し — 記録がないため、医師の面接指導につなげるべき長時間労働に気づけない
- 制度要件の崩れ — 裁量労働制などは時間の状況把握が制度維持の要件であり、記録がないと制度自体が揺らぐ(裁量労働制・高プロの勤怠管理参照)
これからの「打刻しない勤怠管理」
働き方の多様化で、「毎日決まった場所で打刻する」前提はすでに崩れています。一方で、法律が求める労働時間の状況把握はむしろ厳格化してきました。求められているのは、打刻という行為に頼らずに、客観性のある記録を無理なく残せる仕組みです。
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よくある質問
タイムカードを置いていない会社は違法ですか?
タイムカードという道具の設置自体が義務なのではありません。義務なのは労働時間の状況の把握と記録の保存です。現認・客観的記録・(例外として)自己申告のいずれかの方法で、適切に把握・記録できていれば問題ありません。逆に、道具があっても記録が実態と乖離していれば適正とはいえません。
自己申告制だけで運用してもよいですか?
自己申告制は「やむを得ず客観的な方法により難い場合」の例外とされ、十分な説明、客観的な情報と著しく乖離した場合の実態調査、適正な申告を妨げない運用などの措置が求められます。申告をそのまま記録するだけの運用は要件を満たしません。
パソコンのログオン記録は労働時間の記録になりますか?
厚生労働省のガイドラインは、パソコンの使用時間の記録を客観的な記録の一つとして挙げています。ただし、パソコンの使用記録がそのまま労働時間と一致するとは限らないため、自己申告と著しい乖離がある場合の実態調査の材料としても位置づけられています。運用の詳細は社会保険労務士にご相談ください。
- タイムカードがない会社でも、労働時間の状況把握は法律上の義務
- 把握方法は現認・客観的記録・自己申告の3類型で、客観的記録が原則
- 自己申告制は例外扱いで、説明・実態調査・申告を妨げない運用が要件
- 「記録の空白」は未払い残業・長時間労働の見逃しに直結する
- 打刻に頼らず客観性を保つ仕組みが今後の方向性
本記事は2026年7月15日時点の情報に基づく一般的な解説です。個別の運用は所轄の労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。