毎月の給与計算において、従業員の遅刻や早退による控除計算に悩む労務担当者は少なくありません。「10分の遅刻だから30分分を差し引く」といった処理は適法なのでしょうか。本記事では、遅刻・早退時の給与控除における基本的なルールや、違法となり得る切り上げ控除、さらにペナルティとしての「減給制裁」との境界線について解説します。
よくある困りごと
遅刻・早退の控除の誤りは、何分単位で数えるかと、控除と制裁の区別の取り違えで起きます。担当者がつまずきやすい場面を、起きることと理由に分けて並べます。
| 場面 | 起きること | なぜ起きるか |
|---|---|---|
| 10分の遅刻を30分に切り上げて引いている | 働いていた20分の分まで給与から引く | 働かなかった時間を超える控除は、賃金の全額払いの原則(労働基準法第24条)に反するため(何分単位で引けるか) |
| 「遅刻3回で欠勤1日」として1日分を引いている | 働かなかった分を超えた部分が減給の制裁になり、上限を超えることがある | 減給の制裁には、1回の額と1賃金支払期の総額の上限が労働基準法第91条で決まっているため(減給制裁と第91条の上限) |
| 遅刻した人の皆勤手当を外したら、根拠を聞かれた | 担当者が説明できず、不支給が争いになる | 支給の条件を就業規則や賃金規程に書いて周知していないと、不支給の根拠を示せないため(皆勤手当の不支給・査定への反映) |
| 紙のタイムカードから遅刻の分数を手で数えている | 数え間違いや、日によって丸め方が違う控除が出る | 1分単位の集計を毎月手で転記しているため(遅刻・早退時間を正確に集計するには) |
自分で確認・修正できること
次の順に1人分を確かめると、控除しすぎていないかが分かります。
- 就業規則(賃金規程)で、遅刻・早退の控除の計算方法と、1時間単価の出し方を確かめます(ノーワーク・ノーペイで引ける範囲)。
- タイムカードから、遅刻・早退を1回ごとに1分単位で数えます(遅刻・早退時間を正確に集計するには)。
- 時給か月給と、1回ごとの分を下の電卓に入れ、給与明細の控除額と比べます。
- 会社で10分・15分・30分の単位に切り上げているなら、電卓の「比べる」で単位を選び、働かなかった分を超えて引いている額を確かめます(何分単位で引けるか)。
- ペナルティとしての減給も行っているなら、労働基準法第91条の上限に収まっているかを別に確かめます(減給制裁と第91条の上限)。
遅刻・早退の控除の電卓(1分単位)
時給(または月給と月平均所定労働時間)と、遅刻・早退の分を1回ごとに入れると、1分単位で引ける額が出ます。切り上げの単位を選ぶと、多く引いている額と比べられます。
この結果は概算です。確定額は給与計算ソフトか専門家にご確認ください。1時間あたりの単価は丸めずに計算し、控除額の円未満は切り捨てています(働かなかった分より多く引かない向き)。1時間単価の出し方(月給を月平均所定労働時間で割るか、1日単価を所定労働時間で割るか)は、就業規則の定めに合わせてください。
撮影したタイムカードから、パシャ勤怠が労働時間を分単位で集計します。
無料で試す同じ時給単価を使う計算は、このカテゴリの記事にまとめています。1日まるごと休んだ日の控除は欠勤控除の電卓、残業代の時給単価の出し方は割増賃金の計算方法で確かめられます。
遅刻・早退の給与控除は適法か|ノーワーク・ノーペイで引ける範囲
従業員が遅刻や早退をした場合、その働かなかった時間分の給与を差し引くことは、法律上「適法」とされています。これは労働基準法などにおいて直接規定されているわけではありませんが、民法第624条などの解釈に基づく「ノーワーク・ノーペイの原則(労務の提供がなければ賃金は発生しないという原則)」によるものです。
ただし、控除できるのは「実際に労働しなかった時間」に相当する金額のみです。例えば、時給1,200円の従業員が30分遅刻した場合、控除できるのは原則として600円(30分相当分)までとなります。この範囲を超えて、労働した時間分の給与まで差し引いてしまうと、労働基準法第24条が定める「賃金全額払いの原則」に違反する可能性が生じるため注意が必要です。会社の就業規則において、遅刻・早退時の賃金控除に関する計算方法を明確に定めておくことが、労使間のトラブルを防ぐ基本となります。
労働基準法第24条第1項に基づき、賃金は原則としてその全額を支払わなければならないと定められています。ノーワーク・ノーペイによる正当な控除を除き、会社が一方的に給与を差し引くことは認められません。
遅刻した分は何分単位で引けるか|まとめて切り上げる控除が違法になる理由
遅刻や早退の時間集計において、「10分の遅刻を30分に切り上げて差し引く」「5分の遅刻を30分分カットする」といった運用を行っている企業が見られます。しかし、このような「切り上げ控除」は、労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)に違反する可能性が極めて高いとされています。
給与計算における労働時間の端数処理については、厚生労働省の通達(昭和63年3月14日基発第150号)により、1か月における時間外労働等の端数処理方法(30分未満の切り捨て、30分以上の切り上げ)など一部の例外を除き、日々の労働時間は1分単位で計算することが原則とされています。したがって、遅刻・早退についても、実際に遅れた時間(1分単位)を超えて給与を控除することは、働いた分の賃金を支払っていないことになり、違法と判断されるリスクがあります。事務作業の簡便化を理由とした独自のルール設定は避け、実労働時間に応じた正確な控除計算を行いましょう。
遅刻・早退の給与控除における適法・違法の境界線
| 処理方法 | 適法性の判断 | 理由・根拠 |
|---|---|---|
| 1分単位での実時間控除 | 適法 | ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、不就労時間分のみを控除するため |
| 10分遅刻を30分に切り上げて控除 | 違法(の恐れあり) | 実際の不就労時間を超えて控除しており、労働基準法第24条(全額払い)に違反するため |
| 1か月の遅刻時間の端数を四捨五入 | 切り上げた分は違法(切り捨てた分は問題なし) | 1か月の合計時間の端数処理を通達(昭和63年3月14日基発第150号)が認めているのは、時間外・休日・深夜の労働時間と割増賃金の額で、遅刻・早退の控除には当たりません。切り上げて増えた分は働かなかった時間を超える控除で、労働基準法第24条(全額払い)に反します。就業規則に定める減給の制裁として、労働基準法第91条の制限の中で行う場合に限り認められます。切り捨てた分は控除が少なくなるだけで、労働者に有利です |
「遅刻3回で欠勤1日」はできるか|減給制裁と労働基準法第91条の上限
遅刻や早退を繰り返す従業員に対し、ペナルティ(懲戒処分)として給与を引き下げることを「減給の制裁(減給制裁)」と呼びます。これは、働かなかった時間分の給与を差し引く「ノーワーク・ノーペイに基づく控除」とは法的な性質が全く異なります。
減給制裁を行うには、就業規則にその旨の定め(懲戒規定)が必須であるほか、労働基準法第91条による以下の厳格な上限ルールを遵守しなければなりません。
1. 1回の事案に対する減給額は、平均賃金の1日分の半額を超えてはならない
2. 一賃金支払期(1か月など)における減給の総額は、その期間の総賃金(基本給や手当を含む)の10分の1を超えてはならない
例えば、平均賃金が1日10,000円の従業員が遅刻をした場合、1回の遅刻に対するペナルティとしての減給額は5,000円が上限となります。また、何度も遅刻を繰り返したとしても、1か月の給与が30万円であれば、減給できる総額は3万円が上限です。これらの上限を超えた減給は、労働基準法第91条違反となります。また、ノーワーク・ノーペイによる控除と減給制裁を同時に行う場合は、控除分とは別に制裁としての減給分がこの上限内に収まっているかを厳密に管理する必要があります。
就業規則に「減給の制裁」に関する具体的な事由や基準が明記されていない場合、いかなる減給処分も無効と判断される可能性が高いため、あらかじめ自社の規定を確認しておきましょう。
皆勤手当の不支給・査定への反映はどこまで可能か
遅刻や早退が多い従業員に対して、「皆勤手当を支給しない」「賞与の査定(人事評価)を下げる」といった対応を検討するケースもあります。これらは会社の裁量や人事評価制度の範囲内において、一定の合理性があれば認められる傾向にあります。
皆勤手当(または精勤手当)については、就業規則や賃金規程において「1回でも遅刻・早退をした場合は不支給とする」といった支給条件が明確に定められていれば、不支給とすることは一般に可能とされています。これは、手当の支給基準自体が契約内容の一部となっているためです。
人事査定(賞与や昇給の評価)への反映についても、遅刻・早退によって業務効率が低下したことや、勤怠不良の事実を評価項目に基づきマイナス査定することは適法と判断されやすいでしょう。ただし、1回のわずかな遅刻に対して、賞与の大半をカットするような極端な引き下げは「裁量権の逸脱・濫用」として無効とされるリスクがあります。不支給基準や査定の反映ルールはあらかじめ就業規則等で明文化し、従業員に周知しておくことが不可欠です。
遅刻・早退時間を正確に集計するには|手書きタイムカードのデータ化
適法な給与控除や適切な人事評価を行うためには、前提として「従業員が何分遅刻・早退したのか」を1分単位で正確に把握・記録しなければなりません。しかし、多くの製造業や中小企業では、いまだに紙のタイムカードや手書きの出勤簿が使われており、集計作業が属人化・複雑化しているのが実情です。
手書きの打刻時刻を毎月エクセル等に手入力し、1分単位で遅刻時間を計算する作業は、膨大な時間と入力ミスのリスクを伴います。特に「遅刻した日だけを抽出して控除額を計算する」といった個別対応は、給与担当者の大きな負担となります。こうした集計ミスは、意図せず「切り上げ控除(違法)」を引き起こす要因にもなり得ます。正確な労働時間の把握と集計の効率化を両立させるためには、タイムカードの記録を簡単かつ正確にデジタルデータ化できる仕組みの導入が効果的です。
- 遅刻・早退時の給与控除は、働かなかった時間分のみを差し引く「ノーワーク・ノーペイの原則」が基本となる
- 給与控除は1分単位での実時間計算が原則であり、端数を切り上げて多めに差し引く処理は違法となるリスクがある
- 懲戒処分としての「減給制裁」には、労働基準法第91条により「1回あたり平均賃金の半額以下」などの厳しい上限が設けられている
- 皆勤手当の不支給や査定への反映は可能だが、あらかじめ就業規則に明確な基準を定めて周知しておく必要がある
- 労務トラブルを防ぎ正確な控除計算を行うには、タイムカード等の打刻データを1分単位で正しく集計できる仕組み作りが重要である
ここからは専門家へ
次の場面は、記事の手順で決めずに専門家へ相談します。相談先ごとに扱える業務の範囲が法律で決まっています。
| 場面 | 相談先 | 持っていく資料 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 遅刻・早退の控除の計算方法や、減給の制裁の定めを就業規則に置く、または見直す | 社会保険労務士 | 就業規則(懲戒の定め)・賃金規程・遅刻と早退の記録 | 社会保険労務士法第27条(第2条第1項第1号から第2号までの事務) |
| 皆勤手当の不支給や、査定への反映の基準を決める | 社会保険労務士 | 賃金規程(手当の支給基準)・人事評価の基準 | 社会保険労務士法第27条(第2条第1項第1号から第2号までの事務) |
| 切り上げて引いていた分を返すよう求められた、または減給をめぐって争いになった | 弁護士 | 届いた請求の書面・給与明細・タイムカード・就業規則 | 弁護士法第72条 |
社会保険労務士法第27条は、社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者が、他人の求めに応じ報酬を得て、第2条第1項第1号から第2号までの事務(労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成とその提出の代行、申請等の事務代理、個別労働関係紛争のあっせん等の手続の代理、帳簿書類の作成)を業として行うことを禁じています。
会社が自社の就業規則を作って届け出ることや、自社の社会保険・雇用保険の手続きをすることは、会社自身の事務で、第27条の「他人の求めに応じ報酬を得て」行う事務ではありません。社会保険労務士に相談するのは、規程の作り方や手続きの判断が自社でつかないときです。
弁護士法第72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件その他一般の法律事件に関して鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務を取り扱うことや、その周旋をすることを業とすることを禁じています。
次の一手
手書きや紙のタイムカードによる勤怠管理から脱却し、正確な1分単位の集計をスムーズに行うための一手として、スマホでタイムカードを撮影するだけでデータ化できる『パシャ勤怠』の導入を検討してみてはいかがでしょうか。パシャ勤怠は、従来の紙のタイムカード運用を変えることなく、専用アプリで撮影するだけで打刻データを集計・CSV出力できるサービスです。初期費用は0円、月額料金も1人あたり100円(税抜)と非常にリーズナブル。手入力による計算ミスや、意図しない『切り上げ控除』といった労務リスクを未然に防ぎ、毎月の給与計算業務を大幅に効率化します。
よくある質問
10分の遅刻を、30分の遅刻として給与から引いてもよいですか?
原則として認められません。例えば10分の遅刻を30分に切り上げて控除すると、実際に労働した20分分の賃金が支払われないことになり、労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)に違反する可能性が高くなります。控除は1分単位の実時間に基づいて行う必要があります。
「遅刻3回で欠勤1日」として給与を引くのは違法ですか?
就業規則に定めがあれば「減給の制裁」として処理することは可能ですが、その場合でも労働基準法第91条の上限(1回の額が平均賃金の半額以下、総額が一賃金支払期の10分の1以下)を超えてはなりません。上限を超える、または就業規則に規定がない状態で1日分を丸ごと欠勤扱い(無給)にすることは違法となります。
遅刻を理由に皆勤手当を不支給にできますか?
就業規則や賃金規程において「遅刻が1回でもある場合は皆勤手当を支給しない」といった支給条件が明確に定められていれば、不支給とすることは可能です。ただし、規定にあいまいな点がある場合や、事前の周知がないまま一方的に不支給とすることはトラブルの原因となりますのでご注意ください。
朝30分遅刻した人が、終業後に30分残業しました。相殺して残業代なしにできますか?
同じ日の中なら、その日の実労働時間で判断します。所定労働時間が8時間の人が30分遅刻し、終業後に30分働いた場合、その日の実労働は8時間なので、1日8時間を超える時間外労働は生じず、遅刻の控除もしないのが一般的な扱いです。ただし、別の日の遅刻と残業を差し引きすることはできません。残業した日に1日8時間または週40時間を超えた時間には、割増賃金が必要です(労働基準法第37条)。
電車の遅延で遅刻した場合も、給与から引いてよいですか?
働かなかった時間の賃金を支払わない扱い(ノーワーク・ノーペイ)は、遅延が理由でも同じなので、引くこと自体はできます。一方で、遅延証明書があれば控除しないと決めている会社もあります。どちらにするかを就業規則に書いておき、全員に同じ扱いをすると、その場の判断で揉めずに済みます。