毎月の給与計算において、従業員の遅刻や早退による控除計算に悩む労務担当者は少なくありません。「10分の遅刻だから30分分を差し引く」といった処理は適法なのでしょうか。本記事では、遅刻・早退時の給与控除における基本的なルールや、違法となり得る切り上げ控除、さらにペナルティとしての「減給制裁」との境界線について解説します。

遅刻・早退の給与控除は適法か|ノーワーク・ノーペイで引ける範囲

従業員が遅刻や早退をした場合、その働かなかった時間分の給与を差し引くことは、法律上「適法」とされています。これは労働基準法などにおいて直接規定されているわけではありませんが、民法第624条などの解釈に基づく「ノーワーク・ノーペイの原則(労務の提供がなければ賃金は発生しないという原則)」によるものです。

ただし、控除できるのは「実際に労働しなかった時間」に相当する金額のみです。例えば、時給1,200円の従業員が30分遅刻した場合、控除できるのは原則として600円(30分相当分)までとなります。この範囲を超えて、労働した時間分の給与まで差し引いてしまうと、労働基準法第24条が定める「賃金全額払いの原則」に違反する可能性が生じるため注意が必要です。会社の就業規則において、遅刻・早退時の賃金控除に関する計算方法を明確に定めておくことが、労使間のトラブルを防ぐ基本となります。

賃金全額払いの原則とは

労働基準法第24条第1項に基づき、賃金は原則としてその全額を支払わなければならないと定められています。ノーワーク・ノーペイによる正当な控除を除き、会社が一方的に給与を差し引くことは認められません。

控控除は1分単位が原則|まとめて切り上げ控除が違法になる理由

遅刻や早退の時間集計において、「10分の遅刻を30分に切り上げて差し引く」「5分の遅刻を30分分カットする」といった運用を行っている企業が見られます。しかし、このような「切り上げ控除」は、労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)に違反する可能性が極めて高いとされています。

給与計算における労働時間の端数処理については、厚生労働省の通達(昭和63年3月14日基発第150号)により、1か月における時間外労働等の端数処理方法(30分未満の切り捨て、30分以上の切り上げ)など一部の例外を除き、日々の労働時間は1分単位で計算することが原則とされています。したがって、遅刻・早退についても、実際に遅れた時間(1分単位)を超えて給与を控除することは、働いた分の賃金を支払っていないことになり、違法と判断されるリスクがあります。事務作業の簡便化を理由とした独自のルール設定は避け、実労働時間に応じた正確な控除計算を行いましょう。

遅刻・早退の給与控除における適法・違法の境界線

処理方法適法性の判断理由・根拠
1分単位での実時間控除適法ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、不就労時間分のみを控除するため
10分遅刻を30分に切り上げて控除違法(の恐れあり)実際の不就労時間を超えて控除しており、労働基準法第24条(全額払い)に違反するため
1か月の遅刻時間の端数を四捨五入適法(一定の基準内)1か月通算で5分未満を切り捨て、5分以上を切り上げる等の合意・規定がある場合(個別判断が必要)
※1か月通算の端数処理であっても、常に労働者に不利になる切り上げのみを行うことは原則として認められません。

減給制裁との違い|労基法91条の上限ルール

遅刻や早退を繰り返す従業員に対し、ペナルティ(懲戒処分)として給与を引き下げることを「減給の制裁(減給制裁)」と呼びます。これは、働かなかった時間分の給与を差し引く「ノーワーク・ノーペイに基づく控除」とは法的な性質が全く異なります。

減給制裁を行うには、就業規則にその旨の定め(懲戒規定)が必須であるほか、労働基準法第91条による以下の厳格な上限ルールを遵守しなければなりません。

1. 1回の事案に対する減給額は、平均賃金の1日分の半額を超えてはならない
2. 一賃金支払期(1か月など)における減給の総額は、その期間の総賃金(基本給や手当を含む)の10分の1を超えてはならない

例えば、平均賃金が1日10,000円の従業員が遅刻をした場合、1回の遅刻に対するペナルティとしての減給額は5,000円が上限となります。また、何度も遅刻を繰り返したとしても、1か月の給与が30万円であれば、減給できる総額は3万円が上限です。これらの上限を超えた減給は、労働基準法第91条違反となります。また、ノーワーク・ノーペイによる控除と減給制裁を同時に行う場合は、控除分とは別に制裁としての減給分がこの上限内に収まっているかを厳密に管理する必要があります。

就業規則への記載が不可欠

就業規則に「減給の制裁」に関する具体的な事由や基準が明記されていない場合、いかなる減給処分も無効と判断される可能性が高いため、あらかじめ自社の規定を確認しておきましょう。

皆勤手当の不支給・査定への反映はどこまで可能か

遅刻や早退が多い従業員に対して、「皆勤手当を支給しない」「賞与の査定(人事評価)を下げる」といった対応を検討するケースもあります。これらは会社の裁量や人事評価制度の範囲内において、一定の合理性があれば認められる傾向にあります。

皆勤手当(または精勤手当)については、就業規則や賃金規程において「1回でも遅刻・早退をした場合は不支給とする」といった支給条件が明確に定められていれば、不支給とすることは一般に可能とされています。これは、手当の支給基準自体が契約内容の一部となっているためです。

人事査定(賞与や昇給の評価)への反映についても、遅刻・早退によって業務効率が低下したことや、勤怠不良の事実を評価項目に基づきマイナス査定することは適法と判断されやすいでしょう。ただし、1回のわずかな遅刻に対して、賞与の大半をカットするような極端な引き下げは「裁量権の逸脱・濫用」として無効とされるリスクがあります。不支給基準や査定の反映ルールはあらかじめ就業規則等で明文化し、従業員に周知しておくことが不可欠です。

遅刻・早退時間を正確に集計するには|手書きタイムカードのデータ化

適法な給与控除や適切な人事評価を行うためには、前提として「従業員が何分遅刻・早退したのか」を1分単位で正確に把握・記録しなければなりません。しかし、多くの製造業や中小企業では、いまだに紙のタイムカードや手書きの出勤簿が使われており、集計作業が属人化・複雑化しているのが実情です。

手書きの打刻時刻を毎月エクセル等に手入力し、1分単位で遅刻時間を計算する作業は、膨大な時間と入力ミスのリスクを伴います。特に「遅刻した日だけを抽出して控除額を計算する」といった個別対応は、給与担当者の大きな負担となります。こうした集計ミスは、意図せず「切り上げ控除(違法)」を引き起こす要因にもなり得ます。正確な労働時間の把握と集計の効率化を両立させるためには、タイムカードの記録を簡単かつ正確にデジタルデータ化できる仕組みの導入が効果的です。

この記事のまとめ
  • 遅刻・早退時の給与控除は、働かなかった時間分のみを差し引く「ノーワーク・ノーペイの原則」が基本となる
  • 給与控除は1分単位での実時間計算が原則であり、端数を切り上げて多めに差し引く処理は違法となるリスクがある
  • 懲戒処分としての「減給制裁」には、労働基準法第91条により「1回あたり平均賃金の半額以下」などの厳しい上限が設けられている
  • 皆勤手当の不支給や査定への反映は可能だが、あらかじめ就業規則に明確な基準を定めて周知しておく必要がある
  • 労務トラブルを防ぎ正確な控除計算を行うには、タイムカード等の打刻データを1分単位で正しく集計できる仕組み作りが重要である

次の一手

手書きや紙のタイムカードによる勤怠管理から脱却し、正確な1分単位の集計をスムーズに行うための一手として、スマホでタイムカードを撮影するだけでデータ化できる『パシャ勤怠』の導入を検討してみてはいかがでしょうか。パシャ勤怠は、従来の紙のタイムカード運用を変えることなく、専用アプリで撮影するだけで打刻データを集計・CSV出力できるサービスです。初期費用は0円、月額料金も1人あたり100円(税別)と非常にリーズナブル。手入力による計算ミスや、意図しない『切り上げ控除』といった労務リスクを未然に防ぎ、毎月の給与計算業務を大幅に効率化します。

よくある質問

遅刻時間を切り上げて控除してもよいですか?

原則として認められません。例えば10分の遅刻を30分に切り上げて控除すると、実際に労働した20分分の賃金が支払われないことになり、労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)に違反する可能性が高くなります。控除は1分単位の実時間に基づいて行う必要があります。

遅刻3回で1日分の欠勤扱いにするのは違法ですか?

就業規則に定めがあれば「減給の制裁」として処理することは可能ですが、その場合でも労働基準法第91条の上限(1回の額が平均賃金の半額以下、総額が一賃金支払期の10分の1以下)を超えてはなりません。上限を超える、または就業規則に規定がない状態で1日分を丸ごと欠勤扱い(無給)にすることは違法となります。

遅刻を理由に皆勤手当を不支給にできますか?

就業規則や賃金規程において「遅刻が1回でもある場合は皆勤手当を支給しない」といった支給条件が明確に定められていれば、不支給とすることは可能です。ただし、規定にあいまいな点がある場合や、事前の周知がないまま一方的に不支給とすることはトラブルの原因となりますのでご注意ください。