打刻時刻を一定の単位で丸めて集計する運用は、多くの会社で長年の慣行になっています。しかし労働時間は1分単位で集計するのが原則とされており、日々の切り捨ては未払い賃金につながるおそれがあります。この記事では、切り捨てが違法とされる理由、例外的に認められる端数処理、発覚した場合のリスクと現実的な見直し方法を整理します。
よくある困りごと
端数の扱いで問題になりやすいのは、次の場面です。どれも「長年そうしてきた」運用の中に紛れています。
| 場面 | 何が起きるか | なぜ起きるか |
|---|---|---|
| 出勤は後ろに、退勤は前に15分単位で丸めている | 毎日数分ずつ賃金が支払われず、積み重なる | 日々の打刻の丸めは、通達が認める端数処理の対象外(違法になりやすい運用例) |
| 月の残業の合計を、いつも切り捨てている | 切り捨てた分の割増賃金が不足する | 認められているのは30分未満切捨てと30分以上切上げのセット(例外として認められる端数処理) |
| 5分の遅刻を15分として控除している | 働かなかった時間を超えて賃金を差し引く | 超えた分は減給の制裁に当たり、制限がある(遅刻の過大控除) |
| 丸めの運用が、従業員の申告で分かった | 過去にさかのぼって未払い分を支払う | 賃金請求権の時効は当分の間3年(発覚した場合のリスク) |
| 1分単位に切り替えたら、締めの作業が回らなくなった | 結局もとの丸めに戻ってしまう | 集計の手間が増えない仕組みを先に用意していない(1分単位のまま集計する方法) |
自分で確認・修正できること
自社の端数処理を見直すときは、次の順で確かめます。
- 就業規則と賃金規程の端数処理の定めを読む。日々の時刻を丸める定めがあるか、月の合計の処理が切捨てと切上げのセットになっているかを確かめます(例外として認められる端数処理)。
- 集計のどこで丸めているかを見つける。タイムレコーダーの打刻は1分単位で残っていることがほとんどです。エクセルの式、給与ソフトの設定、手作業の転記のどこで丸めているかを探します(丸め処理の注意点)。
- 日々は1分単位で合計し、月の合計にだけ端数処理をする。時分を小数に直すのは月の合計を出したあとの1回だけにします(小数に直すのは足す前か後か)。
- 遅刻・早退の控除を実際の分に合わせる。控除の計算は遅刻・早退の給与控除は1分単位が原則で確かめます。
- 過去の影響額を試算する。1人1日あたりの丸めの分数、勤務日数、残業単価から、1か月と3年分の額を出しておきます(試算の例)。
手書きのタイムカードを1分単位のまま集計する方法は手書きのまま集計を楽にする3つの方法、休憩の時間の扱いは休憩時間は何分必要かにあります。
残業時間の切り捨てが違法とされる理由|労働時間は1分単位が原則
「打刻は一定の単位で丸めて集計している」という会社は今も少なくありません。しかし、日々の労働時間を丸めて切り捨てる運用は、一般に労働基準法違反になり得るとされています。
根拠は大きく2つあります。1つ目は賃金全額払いの原則(労働基準法第24条)です。働いた時間に対応する賃金は全額支払わなければならず、切り捨てた数分にも本来は賃金が発生しています。2つ目は厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)です。使用者には始業・終業時刻を確認し、適正に記録する責務があるとされています。
この2つを合わせると、労働時間は1分単位で把握・集計し、その時間に応じた賃金を支払うのが原則ということになります。残業時間も同様で、切り捨てた分は割増賃金(労働基準法第37条)の不足、つまり未払い残業代として扱われます。
例外として認められる端数処理|1ヶ月合計の30分未満切捨て・30分以上切上げ
一方で、事務処理を簡便にするための端数処理は例外的に認められています。根拠は行政通達の昭和63年3月14日基発150号で、次の処理は法違反として取り扱わないとされています。
| 対象 | 認められる処理 |
|---|---|
| 1ヶ月の時間外・休日・深夜労働それぞれの合計時間 | 30分未満の端数は切捨て、30分以上は1時間に切上げ |
| 1時間あたりの賃金額・割増賃金額の1円未満の端数 | 50銭未満は切捨て、50銭以上は1円に切上げ |
| 1ヶ月の割増賃金総額の1円未満の端数 | 50銭未満は切捨て、50銭以上は1円に切上げ |
ポイントは2つです。第一に、認められているのは「1ヶ月の合計」に対する処理だけで、日々の打刻や日々の残業時間を丸める処理はこの通達の対象外です。第二に、切捨てと切上げはセットであり、切捨てだけを行う運用は認められていません。割増賃金の計算手順と端数処理の全体像は「残業代計算の4ステップ」で詳しく解説しています。
違法になりやすい運用例|日々の打刻の切り捨て・遅刻の過大控除
実務で違法と判断されやすいのは、次のような運用です。
- 日々の打刻を一定の時間単位で丸めて切り捨てる: 出勤時刻は後ろに、退勤時刻は前に丸める運用が典型です。1日あたりは数分でも、毎日積み重なると相当な未払いになり、賃金全額払いの原則に反します。
- 月の残業合計を切捨て方向だけで丸める: 通達が認めるのは30分未満切捨てと30分以上切上げのセットです。合計を常に切り捨てる一方向の処理は通達の範囲外です。
- 遅刻・早退を実際より多く控除する: 賃金から控除できるのは、働かなかった時間分(ノーワーク・ノーペイの原則)までです。それを超える控除は「減給の制裁」に当たり、労働基準法第91条の制限(1回の額が平均賃金1日分の半額以内、総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1以内)を超えると違法になります。制裁として行うには就業規則の根拠も必要です。
逆に、端数を切り上げて多めに支払うなど、労働者に不利益が生じない方向の丸めは、一般に適法とされています。
切り捨てが発覚した場合のリスク|未払い賃金の遡及と是正勧告
切り捨て運用が労働基準監督署の調査や従業員からの申告で発覚すると、是正勧告を受け、過去に遡って未払い分を支払うのが一般的です。賃金請求権の消滅時効は2020年4月の法改正で5年(当分の間は3年)とされており、遡及額は想像以上に大きくなります。
規模感をつかむために試算してみます。従業員20人の会社で、1人1日平均10分の未払いが生じていたと仮定します。月20日勤務なら1人あたり月200分(約3.3時間)です。残業単価を1,500円とすると1人あたり月約5,000円、全体で月約10万円、年間約120万円になります。3年分の遡及なら約360万円という計算です。
さらに裁判になった場合は、未払いの割増賃金と同一額までの付加金(労働基準法第114条)の支払いを命じられる可能性や、遅延損害金も加わります。金額だけでなく、従業員との信頼関係や採用への影響も無視できません。
手書き・打刻のタイムカードを1分単位のまま集計する方法
切り捨て運用が続いてきた背景には、「1分単位で集計すると手作業の負担が大きい」という現実があります。タイムレコーダーの打刻も手書きの時刻も1分単位で記録は残っているのに、集計の段階で丸めてしまっているケースがほとんどです。見直しの選択肢は次の3つです。
- Excelで1分単位の集計式を組む: 時刻計算の関数で対応できます。組み方は「Excelでの勤怠集計の方法と限界」で解説していますが、転記ミスと月末の作業負荷が課題として残ります。
- 手書きタイムシートを読み取ってデータ化する: 手書き運用の会社は判読と転記が最大の負担です。「手書きタイムシートをデータ化する方法」で整理しています。
- 勤怠システムに置き換える: 打刻運用そのものを変える方法ですが、現場への定着に時間がかかる場合があります。
重要なのは、丸めをやめても集計の手間が増えない仕組みを先に用意することです。仕組みがないまま1分単位に切り替えると、締め作業の負担が原因で運用が続かなくなりがちです。
ここからは専門家へ
次の場面は、記事の手順で決めずに専門家へ相談します。相談先ごとに扱える業務の範囲が法律で決まっています。
| 場面 | 相談先 | 持っていく資料 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 就業規則や賃金規程の端数処理の定めを、1分単位や1か月の合計に対する処理に改める | 社会保険労務士 | 就業規則・賃金規程、直近数か月のタイムカードと賃金台帳 | 社会保険労務士法第27条 |
| 遅刻・早退の控除を、減給の制裁として就業規則に定めるかを決める | 社会保険労務士 | 就業規則の制裁の条、控除の実績 | 社会保険労務士法第27条 |
| 過去に切り捨てた分の未払い賃金を請求された、または労働審判を申し立てられた | 弁護士 | タイムカード、賃金台帳、就業規則・賃金規程、請求の書面 | 弁護士法第72条 |
| 自社の端数処理が違反に当たるかを、公的な窓口で一般的な考え方として聞きたい | 労働基準監督署/総合労働相談コーナー | 端数処理の定めと実際の運用のメモ | 相談の窓口(業務の制限の規定ではない) |
社会保険労務士法第27条は、社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者が、他人の求めに応じ報酬を得て、第2条第1項第1号から第2号までの事務(労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成とその提出の代行、申請等の事務代理、個別労働関係紛争のあっせん等の手続の代理、帳簿書類の作成)を業として行うことを禁じています。
会社が自社の就業規則を作って届け出ることや、自社の社会保険・雇用保険の手続きをすることは、会社自身の事務で、第27条の「他人の求めに応じ報酬を得て」行う事務ではありません。社会保険労務士に相談するのは、規程の作り方や手続きの判断が自社でつかないときです。
弁護士法第72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件その他一般の法律事件に関して鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務を取り扱うことや、その周旋をすることを業とすることを禁じています。
次の一手:タイムカードは今のまま、1分単位の集計だけ自動化する
パシャ勤怠は、紙のタイムカードをスマートフォンで撮影し、AI-OCR で勤怠データに変換するクラウド勤怠管理サービスです。今のタイムレコーダーと紙のタイムカードは、そのまま使い続けられます。
打刻漏れを手書きで書き足した時刻も読み取ります。訂正した欄は確認画面で元の画像と見比べて直せます。
使いはじめる前に、初回は会社情報・従業員・就業規則の3つを準備します。締め日や所定労働時間は最初に一度確かめます。
読み取ったあとは、目印の付いた行から先に確かめ、続けて元の画像と見比べていけば、紙から打ち直す手間をかけずに確認を終えられます。撮影からデータ化までの具体的な流れは「タイムカードを撮影してデータ化する方法」で紹介しています。
よくある質問
1ヶ月の残業合計を30分単位で丸めるのは違法ですか?
1ヶ月の合計時間について、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げるセットの処理であれば、昭和63年基発150号により一般に適法とされています。一方、合計を常に切り捨てる一方向の丸めは通達の範囲外で、未払いが生じるため違法と判断されるおそれがあります。処理方法は賃金規程などに明記しておくと運用が安定します。
労働者に有利な切り上げなら問題ありませんか?
日々の端数を切り上げて多めに支払うなど、労働者に不利益が生じない丸めは、賃金全額払いの原則に反しないため一般に適法とされています。ただし、切り上げ後の時間をそのまま労働時間として扱うと、36協定の上限管理などの根拠が実態とずれることがあるため、実労働時間の記録は別途正確に残しておくことをおすすめします。
遅刻時間を実際より多く控除してもよいですか?
認められません。賃金から控除できるのは、実際に労務の提供がなかった時間に相当する分までです。それを超える控除は「減給の制裁」に当たり、労働基準法第91条により1回の額が平均賃金1日分の半額以内、総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1以内という制限があり、就業規則の根拠も必要です。就業規則に定めるときの相談先は「ここからは専門家へ」の表にまとめています。
- 労働時間の切り捨ては賃金全額払いの原則(労働基準法第24条)に反し、1分単位の集計が原則
- 認められる端数処理は1ヶ月合計に対する30分未満切捨て・30分以上切上げ等(昭和63年基発150号)のみ
- 日々の打刻の丸め、切捨て一方向の処理、遅刻の過大控除は違法と判断されやすい
- 未払いが発覚すると当分の間3年分の遡及支払いや付加金のリスクがある
- タイムカード運用を変えずに1分単位で集計できる仕組みづくりが現実的な対策
タイムカードの丸め運用を見直したい、1分単位の集計を手間を増やさずに実現したいという方は、お問い合わせからお気軽にご相談ください。現在の打刻運用のままで移行できるかどうかも含めてご案内します。