給与の締め日や支払日をどのように設定すべきか、悩む経営者や労務担当者は少なくありません。「月末締め翌月払い」が一般的とされていますが、企業の資金繰りや給与計算の実務スケジュールによっては、他の組み合わせが適している場合もあります。
本記事では、給与の締め日と支払日の基本的なルールから、よく使われる3つのパターンの比較、変更する際の手続き、そして締め日直後の集計作業を劇的に効率化する方法までを分かりやすく解説します。
給与の締め日・支払日とは|賃金支払5原則との関係
給与の締め日とは、従業員の労働時間や各種手当を計算するための対象期間の最終日のことです。一方、支払日(給料日)は、計算された給与を実際に従業員へ支払う日を指します。
これらは会社が自由に決められるものですが、労働基準法第24条で定められている「賃金支払の5原則」を遵守しなければなりません。5原則には、日本国内で通用する貨幣で支払う「通貨払の原則」(銀行振込の場合は労使協定が必要)、直接本人に手渡すか本人の口座に振り込む「直接払の原則」、勝手な控除を禁止し全額を支払う「全額払の原則」、毎月1回以上支払う「毎月1回以上支払の原則」、決まった期日に支払う「一定期日支払の原則」があります。
特に注意が必要なのが「毎月1回以上支払の原則」です。これは、前回の支払日から次回の支払日までの期間が1か月を超えてはならないという原則です。例えば、1月25日支払いの次が3月1日払いになると、2月中に給与が支払われない期間が生じるため、毎月1回以上払いの原則に違反します。また、支払日は「毎月第4金曜日」のような変動する日ではなく、「毎月25日」のように特定の日として定める必要があります。なお、締め日から支払日までの期間(据置期間)について、労働基準法上の明確な上限はありませんが、あまりに長い期間を空けることは労働者保護の観点から望ましくないとされています。個別の設定については必要に応じて社会保険労務士などの専門家にご確認ください。
労働基準法第24条に定められた「1.通貨払、2.直接払、3.全額払、4.毎月1回以上払、5.一定期日払」の5つのルールのことです。締め日と支払日を設定・変更する際は、特に毎月1回以上、一定の期日に支払うルールを逸脱しないよう注意が必要です。
よくある3パターン比較|月末締め翌月払い・月末締め当月払い・15日締め当月25日払い
中小企業でよく採用されている給与の締め日と支払日の組み合わせには、主に以下の3つのパターンがあります。それぞれの特徴やメリット・デメリットを比較してみましょう。
1. 月末締め翌月払い(例:月末締め翌月10日・25日払い)
最も一般的なパターンです。当月の労働時間が確定した後に給与計算を行うため、残業代や各種手当の計算ミスが発生しにくいのが最大のメリットです。ただし、新入社員が入社してから最初の給与を受け取るまでの期間が空いてしまうデメリットがあります。
2. 月末締め当月払い(例:月末締め当月25日払い)
当月分の給与をその月のうちに支払うパターンです。基本給は当月分を先払いし、残業代などの変動分は翌月に精算する形式をとることが一般的です。従業員にとっては早く給与を受け取れるメリットがありますが、会社側にとっては実務上のリスクが高い方法でもあります。例えば、月の途中で退職した従業員がいる場合、「働いていない期間の給与を先払いしている」状態となり、過払い分の返還請求が困難になるリスクがあります。そのため、当月払い(先払い・翌月精算)を採用する場合は、就業規則および賃金規程に「当月払いであることの根拠」と「退職時の精算方法」を明記しておく必要があります。
3. 15日締め当月25日払い
毎月15日に締め、同月の25日に支払うパターンです。締め日から支払日までに約10日間の猶予(実務日数)があるため、残業代も含めた給与計算を当月中に完了させて支払うことができます。新入社員への最初の支払いも比較的スムーズに行えますが、月半ばでの締め処理となるため、月ごとのカレンダー(土日祝日の配置)によって実務日数が圧迫されるケースがあります。
給与の締め日・支払日 3パターン比較
| パターン | メリット | デメリット | 実務の難易度 |
|---|---|---|---|
| 月末締め翌月払い | 残業代の計算ミスが起こりにくい | 新入社員の初回支払までが長い | 低い(推奨) |
| 月末締め当月払い | 従業員が早く給与を受け取れる | 退職時の過払いリスク、二重管理(規定必須) | 高い |
| 15日締め当月25日払い | 当月中に残業代も含めて精算できる | 月半ばの集計作業が発生する | 中程度 |
締め日から支払日までに必要な実務日数|集計・計算・振込準備の逆算
給与の締め日から支払日までの間隔(据置期間)を設計する際は、給与計算にかかる実務日数を正確に逆算することが重要です。一般的に、締め日から支払日までは「10日間以上」空けることが実務上推奨されています。
給与計算の実務は、単に計算ソフトを回すだけではありません。以下のようなステップを限られた日数の中で進める必要があります。
まず、現場から紙のタイムカードや勤務実績を回収し、打刻漏れや誤りのチェック(集計作業)を行います。次に、集計された労働時間をもとに基本給や残業代を計算し、社会保険料や住民税、所得税の控除額を算出します(給与計算)。その後、計算結果のダブルチェックを行い、最終的な支払額を確定させます。
最後に、金融機関へ振込データを送信する「総合振込(総振)」の手続きを行います。多くの金融機関において、他行宛て振込などの場合は「振込指定日の3営業日前(窓口やシステムによっては2営業日前)」までにデータを送信完了している必要があります。土日祝日を挟む場合はさらに実務日数が削られるため、カレンダーを意識したスケジュール設計が欠かせません。
締め日から支払日までの実務フロー
- 1. 勤怠集計打刻漏れ回収・集計
- 2. 給与計算残業代・税金・保険料計算
- 3. 承認・確定計算結果の最終確認
- 4. 振込予約支払日の3営業日前まで
締め日・支払日を変更するときの手続きと注意点
企業の成長や業務効率化にともない、給与の締め日や支払日を変更する(例:月末締め当月払いから、月末締め翌月払いへ移行する)ケースがあります。この変更は労働条件の変更にあたるため、適切な手続きを踏まなければトラブルの原因となります。
まず、就業規則(賃金規程)の変更が必要です。労働基準法第89条に基づき、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の変更届を管轄の労働基準監督署へ提出する義務があります。この際、労働基準法第90条に基づき、従業員代表からの「意見書」の添付が必要です。
さらに重要なのが、不利益変更の回避と従業員の同意です。支払日を後ろにずらす場合、移行月には「給与が支払われない期間」や「1ヶ月の支給額が一時的に減少する期間」が発生し、従業員の生活に影響を及ぼします。これは労働契約の不利益変更に該当する可能性があるため、就業規則の変更手続き(集団的合意)を行うだけでなく、労働契約法第9条に基づき、労働者一人ひとりから「個別同意書」を取得することが、後の紛争回避のために必須となります。
また、移行期の生活資金への配慮として、一時的な「つなぎ融資(前払い)」の実施や、数ヶ月かけて段階的に支払日をスライドさせるなどの猶予措置を検討することが一般的です。具体的な移行設計については、事前に社会保険労務士などの専門家へのご相談をおすすめします。
社会保険料の控除タイミング
健康保険法第167条において、原則として前月分の社会保険料を当月支払う給与から控除する(翌月控除)仕組みが定めされています。支払日を当月払いから翌月払いに変更する場合、この社会保険料の控除タイミングと給与支払いの整合性を再設計しないと、移行月に控除漏れや二重控除のリスクが生じます。実務上の混乱を防ぐためにも、控除サイクルが法律通り適切に移行できているかを必ず確認してください。
締め日直後の集計を短縮する|紙のタイムカードをその日のうちにデータ化
給与の締め日から支払日までの期間を十分に確保していても、毎月の勤怠集計作業が属人化していたり、紙のタイムカードの回収に時間がかかっていたりすると、結局支払日直前に徹夜で給与計算をする羽目になってしまいます。
特に中小企業の製造業などでは、「現場の従業員が紙のタイムカードを使っており、締め日にならないと本社に届かない」「手書きの修正や打刻漏れの確認に追われる」という課題が多く見られます。
この課題を解決するためには、紙のタイムカード運用の良さを残しつつ、集計作業だけをデジタル化する方法が効果的です。例えば、毎日の終業時にタイムカードをスマートフォンで撮影するだけで、自動的に打刻データを読み取り、クラウド上で集計が行える仕組みを導入すれば、締め日に慌てて回収・手入力する必要がなくなります。日次で勤務実績がデータ化されていれば、締め日当日の集計作業はわずか数分で完了し、余裕を持って給与計算へと進むことができます。
- 給与の締め日・支払日は、労働基準法第24条の「賃金支払5原則」に則って定める必要がある
- 「月末締め翌月払い」は残業代の計算が正確に行いやすく、最も実務の難易度が低いパターンである
- 締め日から支払日までは、金融機関の振込期限などを考慮して「10日間以上」の猶予を設けるのが望ましい
- 締め日や支払日を変更する際は、就業規則の変更手続きに加え、トラブル防止のため従業員全員から「個別同意書」を取得することが必須である
次の一手
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よくある質問
締め日と支払日の間隔はどれくらい必要ですか?
労働基準法上、締め日から支払日までの日数に制限はありません。しかし、実務上は「10日間」程度の間隔を空けるのが一般的です。勤務データの回収、打刻エラーの修正、給与計算、そして金融機関への総合振込の期限(通常3営業日前)を逆算すると、これ以下の期間ではカレンダーによって実務が非常に厳しくなるためです。
支払日が土日祝日の場合はいつ支払いますか?
支払日が土日祝日に重なる場合、前倒しで支払うか、後ろ倒しで支払うかは会社の就業規則(賃金規程)の定めに従います。一般的には「前営業日に支払う」とする企業が多いです。後ろ倒しにする場合、支払日が翌月にずれ込むと「毎月1回以上支払の原則」に抵触するため、必ず当月内に支払う設定(例:25日が土曜なら24日金曜に前倒し)にする必要があります。
締め日を変更するとき従業員の同意は必要ですか?
締め日や支払日の変更は労働条件の変更にあたるため、就業規則の変更手続き(労基法89条・90条)だけでなく、労働契約法第9条に基づき、従業員一人ひとりからの「個別同意書」の取得が必須となります。特に支払日を後ろにずらす場合は、移行月に一時的な手取り減少などの不利益が生じるため、事前の丁寧な説明とつなぎ融資などの猶予措置を設けることが、紛争を回避するために強く推奨されます。