開業の手続きが終わり、名刺もホームページも用意した。それでも問い合わせが来ない——開業して最初の数か月で、多くの方がここで止まります。
原因は営業スキルではなく、順番であることがほとんどです。認知のない状態でいきなり広告や飛び込みに時間を使うと、成果が出るまでの期間が長すぎて資金と気力が先に尽きます。この記事では、顧問先ゼロから1社目までを、成果が出やすい順に並べて解説します。
1社目を取りに行く順番(近い人から遠い人へ)
営業手法はいくつもありますが、開業直後に着手する順番はほぼ決まっています。判断基準は「相手が自分を知っているか」です。知らない相手ほど、信頼を作る時間が必要になります。
順番としては、次のようになります。
1. 前職の関係者、知人の会社(自分を知っている)
2. 他士業(税理士・行政書士・司法書士など)からの紹介
3. 商工会・業界団体など、継続的に顔を合わせる場
4. ホームページ・検索からの問い合わせ
5. 広告・DM・電話営業
下に行くほど、成果が出るまでの期間が長くなります。4と5は中長期の仕込みとしては有効ですが、1社目をこれで取ろうとすると時間がかかりすぎます。
開業直後に最も多い失敗は、ホームページの作り込みに数か月を使ってしまうことです。ホームページは「紹介された人が確認する場所」としては必須ですが、それ単体で最初の問い合わせを生むことはまれです。
| 手段 | 成果までの期間 | 費用 | 1社目に向くか |
|---|---|---|---|
| 前職・知人の会社 | 短い | ほぼゼロ | 最も向く |
| 他士業からの紹介 | 短い〜中 | ほぼゼロ | 向く |
| 商工会・業界団体 | 中 | 会費程度 | 向く |
| ホームページ・検索 | 長い | 制作費+時間 | 1社目には向かない |
| 広告・DM・電話営業 | 中 | 高い | 1社目には向かない |
他士業からの紹介が発生する条件
紹介がいちばん現実的な導線ですが、「何かあったらお願いします」と伝えるだけでは発生しません。紹介する側には、紹介したあとに困る可能性があるからです。
紹介者が気にしているのは、おおむね次の3点です。
1. 自分の顧客に迷惑をかけないか(対応が遅い、態度が悪い、といったことがないか)
2. 何を頼めるのかが明確か(曖昧だと、そもそも思い出してもらえない)
3. 自分の領域を侵さないか(税理士なら、顧問先を取られないか)
この3つを先に消しておくと、紹介の発生率が変わります。具体的には、対応できる業務の範囲と、対応できない範囲を、紙1枚で渡せる形にしておくことです。「労務全般やります」より「入退社手続きと給与計算、就業規則の作成をやります。税務は扱いません」のほうが、圧倒的に思い出してもらえます。
何でもできますと伝えるほど紹介されにくくなるのは、相手が「誰に何を頼めばいいか」を覚えられないためです。
断られる理由は価格ではなく「今困っていない」
提案が通らなかったとき、原因を価格だと考えて値下げに走るのは危険です。開業直後の値下げは、そのまま顧問料の相場観として固定されます。
実際に多い断り文句は次のようなものです。
- ・今は特に困っていない
- ・今の税理士(または前任者)にお願いしている
- ・忙しいので落ち着いたら
いずれも「困っていない」の言い換えです。裏を返せば、困りごとが顕在化している会社を探すか、まだ気づいていない問題を可視化するか、どちらかが必要になります。
後者のほうが再現性があります。労務は、問題が起きてから対応すると費用も労力も跳ね上がる領域です。「今は困っていないが、この状態は放置するとこうなる」を具体的に示せると、話が前に進みます。
可視化しやすいのは、記録が残っていない領域です。次の3つは、その場で確認できて、放置したときの結果も説明しやすい論点です。
1. 労働時間の記録が紙のまま手計算になっている。労働基準法第109条により、労働関係の重要書類は5年間(経過措置により当分の間3年間)の保存が必要です。記録が後から再現できない状態は、それ自体が指摘の対象になり得ます。
2. 有給休暇の残日数を誰も把握していない。年10日以上付与される労働者には、労働基準法第39条第7項により年5日を取得させる義務があります。取得状況を把握していなければ、達成しているかどうかも分かりません。
3. 就業規則が長年更新されていない。常時10人以上の労働者を使用する事業場は、労働基準法第89条により就業規則の作成と届出が必要で、変更時も同様です。所定労働時間の定めが実態と合っていなければ、残業代の計算そのものがずれます。
初回の面談で聞くこと(提案より先に現状を把握する)
初回で提案を始めてしまうと、相手の実態に合わない話になりがちです。先に現状を聞き切るほうが、結果的に受注率が上がります。
最低限、次は聞いておきます。
1. 従業員数と雇用形態の内訳(正社員・パート・アルバイト・派遣)
2. 労働時間をどう記録しているか(タイムカード、紙、エクセル、システム)
3. 給与計算を誰がやっているか(社内、税理士、代行)
4. 就業規則の有無と、最後に変更した時期
5. 直近で起きたトラブル(未払い残業、退職時のもめごと、労基署の調査など)
6. 締め日と支払日
2と3は特に重要です。ここが紙とエクセルのままなら、毎月の作業負荷が高く、担当者が疲弊しています。困りごとが顕在化しやすい領域なので、最初の入口として提案しやすくなります。
また、この6項目は受託後の見積もりにもそのまま使えます。人数と締め日が分かれば作業量が読めるためです。
1社目は条件より「事例として語れるか」で選ぶ
1社目は、顧問料や条件が多少不利でも受けるべきか——という相談をよく見ます。判断基準を条件だけに置くと迷いますが、「2社目以降の営業で使える事例になるか」を基準にすると決めやすくなります。
事例として使いやすいのは、次のような案件です。
- ・自分が今後狙う業種であること(建設、介護、運送など)
- ・課題がはっきりしていて、対応後の変化を数字で言えること
- ・公開の可否を確認できる相手であること
逆に、業種も課題もばらばらな案件を条件だけで受けていくと、3社目になっても「うちは何が強い事務所か」を説明できないままになります。
なお、事例として紹介する場合は、社名を出すかどうかを含めて必ず事前に許可を取ってください。許可の範囲(社名まで出してよいか、業種と規模だけか)も文面で残しておくと後で困りません。
紙の勤怠が残っている会社は、入口として提案しやすい
最初の1社を探すとき、狙いを定めやすいのが「紙のタイムカードのまま運用している会社」です。
理由は3つあります。第一に、毎月必ず発生する作業なので、困りごとが常に顕在化しています。第二に、労働時間の記録は労働基準法上の義務に直結するため、提案が「あったら便利」ではなく「必要」の話になります。第三に、対応後の変化が時間で示せるため、事例として語りやすくなります。
一方で、勤怠システムの導入提案は嫌がられることも多い領域です。打刻方法を変えると従業員全員の運用が変わるため、現場の抵抗が強く、社長が乗り気でも止まります。
このため、いきなり打刻方法を変える提案をするより、「打刻はそのままで、集計だけを楽にする」提案のほうが通りやすくなります。紙のタイムカードを撮影してデータ化する方法であれば、従業員側の運用は一切変わりません。
パシャ勤怠は、顧問先ごとに勤怠を分けて管理し、様式の違う紙のタイムカードをまとめてデータ化できます。集計結果はExcel・CSVで出力できるため、給与計算の工程へそのまま渡せます。
- 1社目は「自分を知っている人」から順に当たる。ホームページや広告は後回しでよい
- 紹介は、対応できる業務と対応できない業務を紙1枚で示すと発生しやすくなる
- 断られる理由の大半は価格ではなく「今困っていない」
- 初回面談では提案より先に、人数・記録方法・給与計算の担当・就業規則・締め日を聞く
- 1社目は条件より、2社目以降の営業で使える事例になるかで選ぶ
次の一手
パシャ勤怠の社労士ディレクトリでは、顧問先を探している社労士事務所を無料で掲載できます(掲載費・紹介手数料はいただきません)。顧問先から届く紙の勤怠を事務所側でまとめてデータ化する使い方にも対応しています。
よくある質問
開業してすぐホームページを作るべきですか?
紹介された相手が確認する場所として必要ですが、それ単体で最初の問い合わせを生むことはまれです。1社目は知人・前職の関係者や他士業からの紹介のほうが早く、ホームページの作り込みに数か月を使うのは順番として非効率です。
他士業に紹介をお願いするとき、何を伝えればよいですか?
対応できる業務と対応できない業務を、紙1枚で渡せる形にしてください。「労務全般」より「入退社手続きと給与計算、就業規則の作成。税務は扱わない」のほうが思い出してもらえます。
価格で断られたときは値下げすべきですか?
開業直後の値下げは相場観として固定されるため、慎重に判断してください。多くの場合、価格ではなく「今困っていない」が実際の理由です。困りごとを可視化するほうが先です。
1社目は条件が悪くても受けるべきですか?
条件だけで判断せず、2社目以降の営業で事例として使えるかを基準にしてください。今後狙う業種か、対応後の変化を数字で言えるか、公開の可否を確認できる相手か、の3点で判断できます。