ペーパーレス化や業務効率化の一環として、紙のタイムカードをスマートフォンで撮影したり、スキャナーで読み取ったりして電子データで保存する企業が増えています。ここで多くの労務担当者が頭を悩ませるのが、「データ化した後、紙の原本はすぐに捨ててしまってよいのか」という疑問です。

結論から言うと、一定の要件を満たせばタイムカードを電子データのみで保存し、紙の原本を廃棄することは法令上認められています。しかし、労働基準監督署の調査などに耐えうる状態を維持するには、満たすべき具体的な条件や実務上の手順を正しく理解しておく必要があります。本記事では、法的な位置づけから具体的な電子保存の要件、廃棄前の準備までを詳しく解説します。

よくある困りごと

紙のタイムカードを電子データで残しはじめたときに、迷いやすいのは次の場面です。

場面何が起きるかなぜ起きるか
撮影した翌日に紙のカードを捨てた読めない画像や撮り漏れが後で分かっても、元に戻せない画像と集計の確認が終わる前に廃棄している(廃棄の前に決めておくこと)
保存期間を撮影した日から数えた保存の期間が足りなくなる起算日は記録が完結した日か、その記録に係る賃金の支払期日の遅いほう(何を何年保存するのか)
画像を担当者のスマートフォンや個人のフォルダに置いた調査のときにすぐ出せない。担当者が替わると見つからない表示・印刷ができることと、保存期間中に消えないことを確かめていない(電子データで保存する場合の要件)
後から時刻を直したが、直した記録が残っていない書き換えを疑われたときに説明できない変更の履歴を残す仕組みを決めていない(改ざんされていないことの証明)
電子帳簿保存法のスキャナ保存の要件をすべてそろえようとしたタイムスタンプなどの準備に手間がかかり、移行が止まるタイムカードの税務上の位置づけを確かめていない(タイムカードは国税関係書類か)

自分で確認・修正できること

紙の原本を捨てる前に、次の順で確かめます。

  1. 保存期間と起算日を決める。労働基準法第109条の保存(経過措置で当分の間3年)と、労働安全衛生規則第52条の7の3第2項の保存(3年)の両方を満たす期間にします。起算日の数え方は何を何年保存するのかにあります。
  2. 画像の置き場所と名前をそろえる。会社の共有の場所に「年月・氏名」で並べ、担当者以外も開けるようにします。
  3. 表示と印刷を一度試す。任意の月の1人分を画面に出し、紙に印刷できるかを確かめます(即時出力と可用性)。
  4. 直したときの記録の残し方を決める。誰が、いつ、なぜ直したかが残る形にします(変更履歴)。
  5. 廃棄の前の4つを文書にする。廃棄のタイミング・最終確認者・調査のときの出力手順・バックアップを決めてから捨てます(廃棄の前に決めておくこと)。

保存する画像が読めなければ、保存した意味がありません。撮り方は撮影の3原則、手書きの訂正が多いカードは読み取り精度を上げる書式の作り方で整えておきます。紙のまま保管するか、データ化するかの比較はデータ化の5つの方法にあります。

結論。電子データでの保存は認められる。ただし満たすべき条件がある

結論から申し上げますと、紙のタイムカードをスマートフォンやスキャナーで読み取り、電子データとして保存したうえで紙の原本を廃棄することは法的に認められています。厚生労働省が示すガイドラインにおいても、一定の要件を満たすシステムや方法であれば、紙の原本ではなく電磁的記録(電子データ)による保存が可能であるとされています。

ただし、単に「写真を撮って保存したから原本を捨てる」というだけでは不十分です。労働基準監督署の臨検(調査)が入った際に、いつでも速やかにデータを画面に表示でき、必要に応じて紙に印刷して提出できる状態でなければなりません。また、保存期間中にデータが消失したり、第三者によって容易に書き換えられたりしないようなセキュリティ対策も求められます。これらの要件をクリアして初めて、紙の原本を安全に廃棄することができます。

そもそも記録が要る理由。労働時間の客観的把握の義務

保存の話の前に、記録そのものの義務を押さえておきます。労働安全衛生法第66条の8の3により、事業者は、長時間働いた人への医師の面接指導を行うために、労働者の労働時間の状況を把握しなければなりません(2019年4月施行)。把握の方法は、労働安全衛生規則第52条の7の3第1項で「タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法」と定められています。

対象は、管理監督者や裁量労働制で働く人も含めたほぼ全員です(高度プロフェッショナル制度の対象者を除く)。自己申告による把握は、やむを得ず客観的な方法で把握できない場合に限るというのが厚生労働省の通達の考え方です。タイムカードは、規則が挙げる客観的な方法の代表例です。

把握した記録は、労働安全衛生規則第52条の7の3第2項で3年間の保存が求められています。次の節の労働基準法の保存義務とは別の根拠なので、両方を満たすように保存期間を決めます。

何を何年保存するのか(労働基準法第109条は5年、経過措置により当分の間3年)

労働基準法第109条では、使用者は労働者名簿、賃金台帳および雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を保存しなければならないと定めています。タイムカードや出勤簿などの「労働時間の記録に関する書類」は、この「労働関係に関する重要な書類」に該当します。

保存期間については、法改正により「5年間」と定められていますが、経過措置(労働基準法第143条)により、当分の間は「3年間」とされています。起算日は、そのタイムカードの記録が完結した日(月末締めならその月の末日)です。ただし、その記録に係る賃金の支払期日のほうが遅い場合は、支払期日が起算日になります(労働基準法施行規則第56条)。月末締め翌月25日払いなら、7月分のタイムカードは8月25日から数えます。なお、この期間内に未払い残業代の請求などが発生した場合の時効(3年)にも連動しているため、最低でも3年間は確実に、いつでも閲覧・出力できる状態でデータを保持し続ける義務があります。

紙のまま箱に詰めて保管しても保存の義務は果たせますが、「3年前の6月分」を探し出すには箱を開けて1枚ずつめくることになります。撮影した画像を「年月・氏名」で並べておけば、労働基準監督署の調査や、給与の誤りを遡って確かめるときにすぐ出せます。

電子データで保存する場合に求められること(改ざん防止・必要なときに出力できること・保存期間中の可用性)

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」などを踏まえると、勤怠記録を電子データで保存する際には主に以下の3つの要件を満たす必要があります。

1. 客観的な記録と改ざん防止:客観的な打刻データであり、後から故意に書き換えられない、あるいは書き換えた場合にその履歴が確実に残る仕組みであること。
2. 必要時の即時出力性:労働基準監督官の調査などがあった際、事業所において速やかにディスプレイ上に表示でき、かつプリンター等で紙の書面として印刷・出力できること。
3. 保存期間中の可用性:保存義務期間(当分の間3年間)を通じて、データが破損せず、システムのバージョンアップ等によって読み込めなくなることがないよう維持されていること。

これらをクリアしていれば、紙のタイムカードそのものを現物で保管し続ける必要はありません。

タイムカード電子保存に求められる3大要件

  • 改ざん防止(変更履歴の記録や、書き換えができない仕組み)(推奨)
  • 必要時の即時出力(画面表示および紙への印刷ができること)(推奨)
  • 保存期間中の可用性(3〜5年間の保存期間中、データが消えず閲覧できる)(推奨)

タイムカードは国税関係書類か。雇用契約書との関係で位置づけを整理する

税務や経理の観点から「タイムカードは電子帳簿保存法(電帳法)のスキャナ保存制度の対象になるのか」という疑問を持つ担当者も多いでしょう。ここで整理すべきなのは、国税関係の「重要書類」として法律上保存が義務づけられているのは、主に雇用契約書(賃金決定に関する書類)などの契約書関係であるという点です。

タイムカードそのものは、税務上の直接的な「重要書類」ではなく、その雇用契約に基づいて「実際にいくら給与を支払ったか」を裏づけるための「関連書類(諸元)」という位置づけになります。したがって、電帳法の厳しいスキャナ保存要件(タイムスタンプの付与など)を厳密に適用しなければならない書類とは一般に解釈されていません。しかし、給与計算の根拠となる重要資料であることに変わりはないため、関連資料として電子データで適切に保存しておくことには強い実務上の必然性があります。税務の面での保存のしかたを自社で判断できないときの相談先は、「ここからは専門家へ」の表にまとめています。

「重要書類ではないが関連書類」として保存する意味(給与支払いを裏づける諸元)

タイムカードが国税関係の直接的な重要書類ではないとしても、給与支払いの事実を客観的に証明するための「関連書類」として極めて重要な役割を持ちます。税務調査において、役員報酬や従業員給与の支払いが架空のものでないか、あるいは適正な労働対価として支払われているかを証明する際、タイムカードの打刻データは最も強力な証拠書類となります。

また、労働基準監督署の調査だけでなく、万が一従業員との間で残業代請求などの労働トラブルが発生した際にも、客観的な労働時間の諸元データとしてタイムカードの記録が参照されます。紙の原本を廃棄する以上、電子データが「給与計算の根拠として十分に信頼できるもの」でなければ、企業の自己防衛としても機能しなくなってしまいます。だからこそ、データの真正性を保つ仕組みが不可欠です。

本人性と真正性をどう担保するか(その場で打刻する行為と、本人によるアップロード)

電子データが「本物の記録であること(真正性)」と「本人が打刻したこと(本人性)」をどのように担保するかが重要です。従来の紙のタイムカードは、従業員が「その場(出勤場所)に行って物理的にガチャンと打刻する」という行為そのものが、本人による客観的な記録であることの強い裏づけになっていました(ただし代理打刻のリスクは残ります)。

これを電子化する場合、例えば「従業員本人が自分のスマートフォンを使って、その場でタイムカードを撮影してシステムにアップロードする」というプロセスを踏むことで、本人性と真正性を担保しやすくなります。システム側で「誰がいつこの画像をアップロードしたか(uploadedByなど)」の操作ログを自動で記録しておくことにより、後から「誰の意思で登録されたデータか」を客観的に証明できるためです。

「改ざんされていない」をどう証明するか(ハッシュ値・変更履歴・削除記録という3つの仕組み)

電子データ化したタイムカードが、後から管理者などによって都合よく「改ざんされていないこと」を証明するには、システム的に以下の3つの仕組みが機能していることが望ましいとされています。

1. ハッシュ値の保存:ファイルから算出される固有の値(ハッシュ値)を保存しておく方式です。ただしハッシュ値は「何に対して、いつ、どの範囲で」計算し保持するかによって担保できる範囲が変わります(重複取り込みの検知に使う場合と、改ざん検知に使う場合では設計が異なります)。導入時に用途を確認してください。
2. 変更履歴(監査ログ):万が一、打刻データや集計値を手修正した場合には、「誰が、いつ、どの値を、どう変更したか」の履歴が自動で記録され、消去できない状態にしておく必要があります。
3. 論理削除の採用:データを「削除」した際、データベースから完全に消し去る(物理削除)のではなく、削除されたというステータス(履歴)を残す「論理削除」を採用することで、意図的なデータの隠蔽を防ぎます。

パシャ勤怠での対応状況(写真のアップロードと監査ログ)

勤怠SaaS「パシャ勤怠」では、紙のタイムカードをスマートフォンやパソコンから写真でアップロードし、勤怠データにします。

システムの中での操作の履歴は、監査ログに記録されます。前の節の「変更履歴(監査ログ)」にあたる記録をシステムの側で残せるので、社内では、誰が確認し、直したときに理由をどう残すかを決めておきます。

紙の原本を廃棄する前に決めておくこと(廃棄時期・確認者・出力手順・バックアップ)

システムを導入し、要件を満たしていることを確認できたら、いよいよ紙の原本を廃棄する実務に移行します。ただし、現場の混乱を防ぎ、監査時にもスムーズに対応できるよう、事前に社内ルールを策定しておく必要があります。具体的には、以下の4つの項目を文書化し、社内で周知しておきましょう。

1. 廃棄のタイミング:撮影・データ化してから何日後に廃棄するか(例:給与確定日の翌月末など、データ確認が完全に終わるまでの猶予期間を設ける)。
2. 廃棄前の最終確認者:データが不鮮明で読めないなどのトラブルを防ぐため、誰がデータの最終確認を行って廃棄の許可を出すかを決める。
3. 監督署調査時の出力手順:いざというときに、どの画面からどのようにデータをPDF出力・印刷するか、担当者全員が操作できるマニュアルを用意しておく。
4. バックアップ体制:万が一のシステム障害やデータ消失に備え、データのバックアップがどのように行われているか(クラウド側の多重化など)を把握しておく。

この記事のまとめ
  • 要件を満たせば、タイムカードを電子データで保存し、紙の原本を廃棄できる
  • 労働時間の記録は、労働基準法(当分の間3年・起算日は記録の完結日か賃金の支払期日の遅いほう)と労働安全衛生法(3年)の両方で保存が求められ、この間はいつでも出力できる状態でなければならない
  • 本人性や真正性を担保するため、従業員による撮影・アップロードや、監査ログの記録が有効である
  • パシャ勤怠では、システムの中での操作の履歴が監査ログに記録される
  • 原本廃棄の前には、廃棄のタイミングや確認者、出力手順などのルール策定が必要である

ここからは専門家へ

次の場面は、記事の手順で決めずに専門家へ相談します。相談先ごとに扱える業務の範囲が法律で決まっています。

場面相談先持っていく資料根拠
紙の原本を捨てる前に、自社の保存のしかた(画像の残し方・出力の手順・保存期間)で労働関係の書類の保存に足りるかを判断したい社会保険労務士保存のルール案、画像と集計データの出力例、就業規則社会保険労務士法第27条
タイムカードや賃金の記録を、税務の面でどう保存するか(電子帳簿保存法の扱い)を自社で判断できない税理士給与の支払いの記録、タイムカードの保存のしかたの案税理士法第52条
労働時間の記録の保存について、公的な窓口で一般的な考え方を聞きたい労働基準監督署/総合労働相談コーナー保存のルール案相談の窓口(業務の制限の規定ではない)

社会保険労務士法第27条は、社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者が、他人の求めに応じ報酬を得て、第2条第1項第1号から第2号までの事務(労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成とその提出の代行、申請等の事務代理、個別労働関係紛争のあっせん等の手続の代理、帳簿書類の作成)を業として行うことを禁じています。

会社が自社の就業規則を作って届け出ることや、自社の社会保険・雇用保険の手続きをすることは、会社自身の事務で、第27条の「他人の求めに応じ報酬を得て」行う事務ではありません。社会保険労務士に相談するのは、規程の作り方や手続きの判断が自社でつかないときです。

税理士法第2条は、税理士の業務を、他人の求めに応じ、租税に関し、税務代理・税務書類の作成・税務相談を行うことと定めています。第52条は、税理士又は税理士法人でない者が、この税理士業務を行うことを禁じています。

会社が自社の従業員の給与から源泉徴収し、年末調整をすることは、所得税法第190条が給与の支払者に求めている会社自身の事務で、税理士法第2条の「他人の求めに応じ」て行う税理士業務ではありません。税理士でなくても、会社が自分で行えます。税理士に相談するのは、自社で判断のつかない個別の税額や課税の扱いがあるときです。

次の一手

紙のタイムカードの打刻はそのままに、記録を画像とデータで残す方法として、パシャ勤怠があります。パシャ勤怠は、紙のタイムカードをスマートフォンで撮影し、AI-OCR で勤怠データに変換するクラウド勤怠管理サービスです。

使いはじめる前に、初回は会社情報・従業員・就業規則の3つを準備します。締め日や所定労働時間は最初に一度確かめます。

データの保存先は Google Cloud の東京リージョンで、操作の履歴は監査ログに記録します。

月の勤怠は PDF・Excel・CSV で出力できます。料金は1人1か月100円(税抜)で、初期費用はかかりません。

よくある質問

撮影してデータ化したら紙のタイムカードはすぐに捨ててよいですか?

データ化された画像や数値に欠落がなく、システム上でいつでも表示・印刷できる状態が確認できれば、紙の原本を廃棄しても法律上問題ありません。ただし、給与計算が確定し、データの不備がないことを確認するまでは(例えば翌月末までなど)一定期間保管した後に廃棄するルールを社内で定めておくのが実務上安全です。

電子データだけで労働基準監督署の調査に対応できますか?

対応可能です。労働基準監督官の調査(臨検)の際に、事業所のパソコン等のディスプレイ上で速やかに該当する労働者の勤怠記録を表示でき、かつ必要に応じてプリンターで紙に出力(印刷)できる状態になっていれば、電子データのみの保存であっても問題なく認められます。

タイムスタンプは必要ですか?

タイムカードは国税関係の「重要書類(契約書等)」ではなく、その事実を裏づける「関連書類」に位置づけられるため、一般に電子帳簿保存法上の厳密なタイムスタンプ付与までは義務づけられていないと解釈されています。ただし、改ざんができない、あるいは変更履歴が確実に残るシステムで保存することは必要です。

保存期間は3年ですか、5年ですか?

労働基準法第109条により、タイムカード等の労働関係重要書類の保存期間は「5年間」と定められていますが、経過措置(同法第143条)により、当分の間は「3年間」とされています。起算日は記録が完結した日で、その記録に係る賃金の支払期日のほうが遅ければ支払期日です(労働基準法施行規則第56条)。労働時間の状況の記録は、労働安全衛生規則第52条の7の3第2項でも3年間の保存が求められています。

タイムカードは「客観的な記録」として認められますか?

認められます。労働安全衛生規則第52条の7の3第1項は、労働時間の状況を把握する客観的な方法の例として「タイムカードによる記録」を挙げています。紙を廃棄して画像で残す場合は、廃棄の前に、画像と集計データが全員分そろっているかを確かめておくと、後から確認が必要になったときにも対応できます。