ペーパーレス化や業務効率化の一環として、紙のタイムカードをスマートフォンで撮影したり、スキャナーで読み取ったりして電子データで保存する企業が増えています。ここで多くの労務担当者が頭を悩ませるのが、「データ化した後、紙の原本はすぐに捨ててしまってよいのか」という疑問です。

結論から言うと、一定の要件を満たせばタイムカードを電子データのみで保存し、紙の原本を廃棄することは法令上認められています。しかし、労働基準監督署の調査などに耐えうる状態を維持するには、満たすべき具体的な条件や実務上の手順を正しく理解しておく必要があります。本記事では、法的な位置づけから具体的な電子保存の要件、廃棄前の準備までを詳しく解説します。

結論—電子データでの保存は認められる。ただし満たすべき条件がある

結論から申し上げますと、紙のタイムカードをスマートフォンやスキャナーで読み取り、電子データとして保存したうえで紙の原本を廃棄することは法的に認められています。厚生労働省が示すガイドラインにおいても、一定の要件を満たすシステムや方法であれば、紙の原本ではなく電磁的記録(電子データ)による保存が可能であるとされています。

ただし、単に「写真を撮って保存したから原本を捨てる」というだけでは不十分です。労働基準監督署の臨検(調査)が入った際に、いつでも速やかにデータを画面に表示でき、必要に応じて紙に印刷して提出できる状態でなければなりません。また、保存期間中にデータが消失したり、第三者によって容易に書き換えられたりしないようなセキュリティ対策も求められます。これらの要件をクリアして初めて、紙の原本を安全に廃棄することができます。

何を何年保存するのか(労働基準法109条は5年、経過措置により当分の間3年)

労働基準法第109条では、使用者は労働者名簿、賃金台帳および雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を保存しなければならないと定めています。タイムカードや出勤簿などの「労働時間の記録に関する書類」は、この「労働関係に関する重要な書類」に該当します。

保存期間については、法改正により「5年間」と定められていますが、経過措置(労働基準法第143条)により、当分の間は「3年間」とされています。起算日は、そのタイムカードに記載された最後の労働日(給与計算の対象期間の末日)です。なお、この期間内に未払い残業代の請求などが発生した場合の時効(3年)にも連動しているため、最低でも3年間は確実に、いつでも閲覧・出力できる状態でデータを保持し続ける義務があります。

電子データで保存する場合に求められること(改ざん防止・必要なときに出力できること・保存期間中の可用性)

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」などを踏まえると、勤怠記録を電子データで保存する際には主に以下の3つの要件を満たす必要があります。

1. 客観的な記録と改ざん防止:客観的な打刻データであり、後から故意に書き換えられない、あるいは書き換えた場合にその履歴が確実に残る仕組みであること。
2. 必要時の即時出力性:労働基準監督官の調査などがあった際、事業所において速やかにディスプレイ上に表示でき、かつプリンター等で紙の書面として印刷・出力できること。
3. 保存期間中の可用性:保存義務期間(当分の間3年間)を通じて、データが破損せず、システムのバージョンアップ等によって読み込めなくなることがないよう維持されていること。

これらをクリアしていれば、紙のタイムカードそのものを現物で保管し続ける必要はありません。

タイムカード電子保存に求められる3大要件

  • 改ざん防止(変更履歴の記録や、書き換えができない仕組み)(推奨)
  • 必要時の即時出力(画面表示および紙への印刷ができること)(推奨)
  • 保存期間中の可用性(3〜5年間の保存期間中、データが消えず閲覧できる)(推奨)

タイムカードは国税関係書類か—雇用契約書との関係で位置づけを整理する

税務や経理の観点から「タイムカードは電子帳簿保存法(電帳法)のスキャナ保存制度の対象になるのか」という疑問を持つ担当者も多いでしょう。ここで整理すべきなのは、国税関係の「重要書類」として法律上保存が義務づけられているのは、主に雇用契約書(賃金決定に関する書類)などの契約書関係であるという点です。

タイムカードそのものは、税務上の直接的な「重要書類」ではなく、その雇用契約に基づいて「実際にいくら給与を支払ったか」を裏づけるための「関連書類(諸元)」という位置づけになります。したがって、電帳法の厳しいスキャナ保存要件(タイムスタンプの付与など)を厳密に適用しなければならない書類とは一般に解釈されていません。しかし、給与計算の根拠となる重要資料であることに変わりはないため、関連資料として電子データで適切に保存しておくことには強い実務上の必然性があります。※個別具体的な税務判断については、顧問税理士や所轄税務署へご確認ください。

「重要書類ではないが関連書類」として保存する意味(給与支払いを裏づける諸元)

タイムカードが国税関係の直接的な重要書類ではないとしても、給与支払いの事実を客観的に証明するための「関連書類」として極めて重要な役割を持ちます。税務調査において、役員報酬や従業員給与の支払いが架空のものでないか、あるいは適正な労働対価として支払われているかを証明する際、タイムカードの打刻データは最も強力な証拠書類となります。

また、労働基準監督署の調査だけでなく、万が一従業員との間で残業代請求などの労働トラブルが発生した際にも、客観的な労働時間の諸元データとしてタイムカードの記録が参照されます。紙の原本を廃棄する以上、電子データが「給与計算の根拠として十分に信頼できるもの」でなければ、企業の自己防衛としても機能しなくなってしまいます。だからこそ、データの真正性を保つ仕組みが不可欠です。

本人性と真正性をどう担保するか(その場で打刻する行為と、本人によるアップロード)

電子データが「本物の記録であること(真正性)」と「本人が打刻したこと(本人性)」をどのように担保するかが重要です。従来の紙のタイムカードは、従業員が「その場(出勤場所)に行って物理的にガチャンと打刻する」という行為そのものが、本人による客観的な記録であることの強い裏づけになっていました(ただし代理打刻のリスクは残ります)。

これを電子化する場合、例えば「従業員本人が自分のスマートフォンを使って、その場でタイムカードを撮影してシステムにアップロードする」というプロセスを踏むことで、本人性と真正性を担保しやすくなります。システム側で「誰がいつこの画像をアップロードしたか(uploadedByなど)」の操作ログを自動で記録しておくことにより、後から「誰の意思で登録されたデータか」を客観的に証明できるためです。

「改ざんされていない」をどう証明するか(ハッシュ値・変更履歴・削除記録という3つの仕組み)

電子データ化したタイムカードが、後から管理者などによって都合よく「改ざんされていないこと」を証明するには、システム的に以下の3つの仕組みが機能していることが望ましいとされています。

1. ハッシュ値の保存:ファイルから算出される固有の値(ハッシュ値)を保存しておく方式です。ただしハッシュ値は「何に対して、いつ、どの範囲で」計算し保持するかによって担保できる範囲が変わります(重複取り込みの検知に使う場合と、改ざん検知に使う場合では設計が異なります)。導入時に用途を確認してください。
2. 変更履歴(監査ログ):万が一、打刻データや集計値を手修正した場合には、「誰が、いつ、どの値を、どう変更したか」の履歴が自動で記録され、消去できない状態にしておく必要があります。
3. 論理削除の採用:データを「削除」した際、データベースから完全に消し去る(物理削除)のではなく、削除されたというステータス(履歴)を残す「論理削除」を採用することで、意図的なデータの隠蔽を防ぎます。

パシャ勤怠での対応状況(本人によるアップロード、監査ログのハッシュチェーン、記録が残る論理削除)

勤怠SaaS「パシャ勤怠」では、紙のタイムカードをスマホで撮影してデータ化する運用において、上記のような真正性と改ざん防止を担保する機能を標準で備えています。

まず、アップロードされたタイムカード画像の「ハッシュ値」をシステム内部で保存しており、同一画像を重複して取り込んでしまうことの検知に用いています。また、システム内の操作記録である「監査ログ」には、操作日時、操作者、操作種別、成否などが詳細に記録され、各ログが直前のログ情報(SHA-256)を保持する「ハッシュチェーン」技術を採用しているため、ログ自体の改ざんや欠落も検知可能です。さらに、シートの削除操作は「論理削除」として処理され、削除された事実や操作者も監査ログに永続的に記録されます。従業員本人が撮影して送信する(uploadedByの記録)運用にも対応しており、本人性の証明もスムーズです。

紙の原本を廃棄する前に決めておくこと(廃棄時期・確認者・出力手順・バックアップ)

システムを導入し、要件を満たしていることを確認できたら、いよいよ紙の原本を廃棄する実務に移行します。ただし、現場の混乱を防ぎ、監査時にもスムーズに対応できるよう、事前に社内ルールを策定しておく必要があります。具体的には、以下の4つの項目を文書化し、社内で周知しておきましょう。

1. 廃棄のタイミング:撮影・データ化してから何日後に廃棄するか(例:給与確定日の翌月末など、データ確認が完全に終わるまでの猶予期間を設ける)。
2. 廃棄前の最終確認者:データが不鮮明で読めないなどのトラブルを防ぐため、誰がデータの最終確認を行って廃棄の許可を出すかを決める。
3. 監督署調査時の出力手順:いざというときに、どの画面からどのようにデータをPDF出力・印刷するか、担当者全員が操作できるマニュアルを用意しておく。
4. バックアップ体制:万が一のシステム障害やデータ消失に備え、データのバックアップがどのように行われているか(クラウド側の多重化など)を把握しておく。

この記事のまとめ
  • 要件を満たせば、タイムカードを電子データで保存し、紙の原本を廃棄できる
  • 労働基準法上の保存期間は当分の間3年間であり、この間はいつでも出力できる状態でなければならない
  • 本人性や真正性を担保するため、従業員による撮影・アップロードや、監査ログの記録が有効である
  • パシャ勤怠では監査ログのハッシュチェーンと論理削除により改ざん防止に対応している(画像のハッシュ値は重複取り込みの検知用)
  • 原本廃棄の前には、廃棄のタイミングや確認者、出力手順などのルール策定が必要である

次の一手

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よくある質問

撮影してデータ化したら紙のタイムカードはすぐに捨ててよいですか?

データ化された画像や数値に欠落がなく、システム上でいつでも表示・印刷できる状態が確認できれば、紙の原本を廃棄しても法律上問題ありません。ただし、給与計算が確定し、データの不備がないことを確認するまでは(例えば翌月末までなど)一定期間保管した後に廃棄するルールを社内で定めておくのが実務上安全です。

電子データだけで労働基準監督署の調査に対応できますか?

対応可能です。労働基準監督官の調査(臨検)の際に、事業所のパソコン等のディスプレイ上で速やかに該当する労働者の勤怠記録を表示でき、かつ必要に応じてプリンターで紙に出力(印刷)できる状態になっていれば、電子データのみの保存であっても問題なく認められます。

タイムスタンプは必要ですか?

タイムカードは国税関係の「重要書類(契約書等)」ではなく、その事実を裏づける「関連書類」に位置づけられるため、一般に電子帳簿保存法上の厳密なタイムスタンプ付与までは義務づけられていないと解釈されています。ただし、改ざんができない、あるいは変更履歴が確実に残るシステムで保存することは必要です。

保存期間は3年ですか、5年ですか?

労働基準法第109条により、タイムカード等の労働関係重要書類の保存期間は「5年間」と定められていますが、経過措置(同法143条)により、当分の間は「3年間」とされています。したがって、現行の実務においては「最後の労働日から3年間」確実に保存しておく必要があります。